レーザーは加工や計測など、様々な場面で活躍しています。本記事ではそんなレーザーがどのように作られるのか、
その発振原理に関して解説します。
レーザー発振原理
レーザーの発振には、「励起」「自然放出」「誘導放出」「反転分布」「増幅」といったキーワードが関わってきます。
ここでは、これらのキーワードに触れながら、レーザー発振の原理について解説します。
励起
原子(分子)に、外部から光を照射するなどしてエネルギーを与えると、原子(分子)中の電子がエネルギーを吸収します。
エネルギー吸収に伴い、電子はエネルギーが低い電子軌道から、よりエネルギーの高い外側の軌道へと移ります。
エネルギーが低く安定な状態を基底状態、エネルギーが高い状態を励起状態と呼びます。
基底状態から励起状態への遷移を励起と言います。
図 光エネルギーを吸収し基底状態から励起状態へ遷移する「励起」イメージ
自然放出
励起状態にある原子(分子)はエネルギーが高く不安定です。そのため、エネルギーが低く安定した状態へ戻ろうとして、
外側の軌道にある電子がより内側の軌道へ移ります。
その際、外側の軌道と内側の軌道のエネルギーの差分を、光として放出します。この現象が自然放出です。
図 エネルギーの差分を光として放出する「自然放出」イメージ
誘導放出
自然放出により放出された光は、励起状態にある他の電子が低いエネルギー状態へ遷移するためのトリガーとなり、
軌道間のエネルギーの差分が再び光として放出されます。この現象が誘導放出です。
この際に発生する光は、トリガーとなった光と同じ性質(波長・位相・進行方向)であるため、光の強め合いが起こります。
図 軌道間のエネルギーの差分が再び光として放出される「誘導放出」イメージ
反転分布
基底状態よりも励起状態の電子の方が多い状態を、反転分布といいます。
誘導放出を繰り返して同一の性質を持つ光を増加させることで、出力の大きいレーザー光が生成されます。
しかし、周囲に基底状態の電子が多くある状態では、エネルギーが吸収されてしまい、誘導放出が起きにくくなります。
そこで、あらかじめ外部からエネルギーを与えて励起状態の電子を増加させ、吸収よりも誘導放出が生じる確率を高めておくことで、レーザー光を効率的に作り出すことができるようになります。
増幅
一般的に、レーザーは図のように、*1 レーザー媒質(誘導放出が起こる物質)を2枚のミラーからなる*2 共振器で
挟み込んだような構成をしています。前述の自然放出や誘導放出はこのレーザー媒質中で起こり、
発生した光はミラーによって内部に閉じ込められます。
この閉じ込められた光がレーザー媒質中の励起状態の電子に繰り返し衝突することで誘導放出が雪崩的に起こり、
内部で光が増幅されます。この大きく増幅された光が外部へ放出(レーザー発振)されることで、
レーザー光として利用できるようになるのです。
図 共振器による光の増幅
レーザーの特長
レーザー光は、自然光や蛍光灯の光といった、身近な光とは異なった性質を持ちます。この項では、そんなレーザー光の特徴について詳しく見ていきます。
レーザー光と通常光との違い
レーザー光は、通常光(自然光や蛍光灯の光など)とは異なり、次表のような性質を持っています。
図 レーザーダイオードとLEDの特長比較
さらに詳しい記事はこちら>> レーザーダイオードとLEDの違いとは?
波長ごとの特徴
レーザー光の波長は、レーザー媒質の種類によって異なり、表の様に波長ごとに異なる特徴を持ちます。
波長 | 帯域 | 特長 | 代表的なレーザー |
193 nm | 紫外域 | 355nmよりもさらに吸収率が高く熱ストレスを与えにくい。 材料加工用のレーザーとしては最も短い波長で、商用のレーザーとしては最も精密な加工が可能。 | エキシマレーザー |
355 nm | 紫外域 | 様々な物体に対して吸収率が高く熱ストレスを与えにくい。 532nmよりもさらにビーム径を絞りやすいため微細加工に適しているが、 吸収率が高いため、光学結晶に影響が出てしまう。 | YAGレーザー YVO4レーザー + 非線形光学結晶 |
532 nm | 可視域 | ビーム径を絞りやすいため微細加工に適している。 透明な物体は透過してしまうため不向きだが、様々な物体に対して 吸収率が高いため加工が容易。 | YAGレーザー YVO4レーザー + 非線形光学結晶 |
1064 nm | 赤外域 | 最も汎用性の高い波長。 幅広い材料の加工が可能だが、透明な物体は透過してしまうため不向き。 | YAGレーザー YVO4レーザー |
10600 nm | 赤外域 | 一般的なレーザーの中で最も長い波長帯。 金属に吸収されにくく、水分に吸収されやすい。 透明な物体も加工が可能。 | CO2 レーザー |
レーザーの種類
レーザーはレーザー媒質や発振方法によって分類することができます。種類ごとに異なった特徴を持つため、
目的に応じて適切に選定を行う必要があります。
※基本的に使用するレーザー媒質によって発振方法はほとんど決まっています。
レーザー媒質による分類については コチラの記事>>レーザーの種類とその活用例について
発振方法による分類については本記事の次項「発振方法」をご参照ください。
発振方法
レーザーは、連続的な出力が得られる「CWレーザー(連続発振レーザー)」と、パルス状の出力が得られる「パルス発振レーザー」
に大分できます。
また、パルス発振レーザーはそのパルス幅によって「フェムト秒レーザー」「ピコ秒レーザー」「ナノ秒レーザー」「マイクロ秒レーザー」
に分類することができます。この項では各レーザーの特徴を解説します。
図 レーザーの分類
CWレーザー(連続発振レーザー)
CWはContinuous Waveの略省で、一定の出力を連続して発振できるレーザーです。
連続で光を照射するという特性によって、切れ目のないきれいな加工を求められる溶接や、切断といった工程で
用いられます。
特に光ファイバを用いたCWファイバレーザーは、*3 ビーム品質を高く保つことができ、かつレーザー光の照射範囲を
狭くすることができるため、繊細な加工が可能です。
CWファイバレーザー発振器
(高出力ファイバレーザエンジン) ▶▶
FBG、コンバイナ、Ybダブルクラッドファイバ、クラッドポンプストリッパ、高出力デリバリファイバがモジュール化されており、高出力のレーザーダイオードを光ファイバ融着接続することでkWレベルのレーザーが製造できます。
狭線幅CWレーザー光源
ラインナップ ▶▶
産業用途向け、量子用途向け など様々なアプリケーションに適したレーザー光源を取り揃えております。
パルスレーザー
パルスレーザーは、一定の周期で繰り返しパルス状の光が出力されるレーザーです。そのパルス幅によって、
「フェムト秒レーザー」「ピコ秒レーザー」「ナノ秒レーザー」「マイクロ秒レーザー」に分けることができ、
「フェムト秒レーザー」「ピコ秒レーザー」「ナノ秒レーザー」をまとめて、超短パルスレーザーと呼称することもあります。
特に、超短パルスレーザーは極めて短時間のパルスが発生するため、電気信号では到達できない領域にある高速な
化学反応の過程や、分子運動の解析に応用することができます。 また、パルス状の出力を得るためには、
次の表のような方法があります。
方式 | 特徴 |
直接変調法 | 種光源 (LD)を電流制御で直接ON⇔OFF することでパルスを得る。 |
外部変調法 | CWレーザーの出力を外部変調器でON⇔OFF することでパルスを得る。 |
Qスイッチ法 | 共振器内のQ値(Quality Factor)を一気に高めることでパルスを得る。 |
*4 モード同期法 | 共振器内の縦モード間の位相関係を利用してパルスを得る。 |
より詳細なパルス発振方法は コチラの記事>> パルスレーザーとは?方式や用途など詳しく解説!
超短パルスレーザー
(ナノ秒/ピコ秒/フェムト秒) 光源
ラインナップ ▶▶
弊社は、世界的に実績・信頼性の高い ファイバレーザーメーカ、NKT Photonics社 の正規取扱代理店です。
その他、お客様に最適なソリューションをご提案いたします。
まとめ
- レーザーは自然放出を発端とした誘導放出が共振器の内部で雪崩的に起こることで発生します。
- レーザーは、通常光とは異なり、単色性、指向性の高さ、可干渉性に優れるという特徴があります。
- 使用されるレーザー媒質や発振方法によって分類することができます。後者で分類する場合には、連続出力が得られる「CWレーザー」とパルス状の光が周期的に出力される「パルスレーザー」に大分できます。特にパルスレーザーは、パルス幅によってさらにフェムト、ピコ、ナノ、マイクロ秒レーザーにわけられ、フェムト~ナノ秒レーザーは超短パルスレーザーとも呼称します。
用語集
用語 | 意味 |
*1 レーザー媒質 | 光のパワーを増幅する物質。レーザー光を生み出す際の元となる。 |
*2 共振器 | 2枚の鏡を向かい合わせたもの。内部に光を閉じ込め、定常波を生み出す。レーザー以外にも、干渉計などに用いられる。 |
*3 ビーム品質 | ビーム径をどの程度集光できるかを示すパラメータ |
*4 モード同期 | 共振器内には縦モードの波長の異なる光が存在するが、その位相が一定の状態のこと。 |