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パルスレーザーとは?基礎知識から、強みを活かした用途例など解説します

#ファイバレーザー

パルスレーザーとは?

パルスレーザーは、ファイバレーザーの一種で、一定の繰り返し周波数で光が出力されるレーザーです。(図1) 
パルス幅の違いからマイクロ秒レーザー、ナノ秒レーザー、ピコ秒レーザー、
フェムト秒レーザーなどと区分されます。

パルスレーザー使用時の繰り返し周波数の図

図1 一定の繰り返し周波数で光が出力される

パルスレーザーの出力は以下の式のようになります。

平均出力 [W] = 1パルスエネルギー [J] × 繰り返し周波数 [Hz]

また、1パルスのピーク強度は以下の式で求められます。

1パルスのピーク強度の計算式

パルス発振の手法

パルスを得るためには以下のような方式があります。

① 直接変調法
種光源 (LD)を電流制御で直接ON⇔OFFすることでパルスを得ます。波形制御が容易で光通信などに用いられ、パルス幅はナノ秒(10億分の1秒)・ピコ秒(1兆分の1秒)程度です。

② 外部変調法
先述のCWレーザーの出力を外部変調器でON⇔OFFします。より高出力レーザーを得る際に使用され、パルス幅は直接変調法と同じくナノ秒 (10億分の1秒)・ピコ秒(1兆分の1秒) 程度です。

③ Qスイッチ法
共振器の品質をQ値(Quality Factor)と呼びます。Qスイッチ法とは、このQ値を急激に変化させることでパルス光を得る方式です。具体的には、共振器内に回転ミラーや可飽和吸収体などの素子を設置することで、反転分布が大きくなったタイミングでQ値を一気に高くします。非常に大きなピークパワーを持つパルスを発生させることが可能で、パルス幅はマイクロ秒(100万分の1秒)・ナノ秒(10億分の1秒)程度です。

*1モード同期 法
共振器内に存在する多数の縦モードの位相関係を一定に保つ(モード同期)技術です。モードロックレーザーなどとも呼ばれ、各縦モードの位相がそろったところで干渉が生じて大きなピークが現れるため、ピークが共振器を1周するごとにパルスが生じて超短パルスを得ることができます。光コムなどに応用され、パルス幅はごく短いピコ秒(1兆分の1秒)・フェムト秒(1000兆分の1秒)程度です。

パルスレーザーの構成例

構成例としてMOPA(Master Oscillator Power Amplifier)と呼ばれるパルスファイバレーザを 図2 に示しました。
このレーザーは種光源であるLDをパルスジェネレータで発振させ、光ファイバアンプで増幅します。その後、安定性のFBG高い主発振器と高出力の増幅器を分けて制御を行い、パルス光を得ます。この構成ではパルスジェネレータによってパルス間隔やパルス幅を変えることが可能で、任意の特性にすることができます。レーザーマーキングやマイクロ加工など高出力用途に多く用いられます。

MOPA型ファイバレーザー構成図

図2 MOPA型ファイバレーザー構成

1064nmナノ秒パルスレーザー
出力: 20 ~ 100W
『NANOPEAK』シリーズ ▶▶

20~100W MOPAナノ秒パルスファイバーレーザー。
デモ機のご用意もございますので、使用ご検討の方は
ぜひお問合せくださいませ。


超短パルスレーザーとは

超短パルスレーザーはパルスレーザーの中でもパルス幅が数ピコ秒~数フェムト秒のレーザーを指します。極めて短時間にパルスが発生し、電気信号では到達できない領域であるため、高速な化学反応過程や分子運動の解析を行うことができます。

パルスレーザーの発振方法は先述の通り変調法、Qスイッチ法、モード同期法がありますが、超短パルスレーザーの発振はモード同期法が用いられます。最もシンプルなモードロックファイバレーザーの構成を図に示しました。(図3

この共振器は *2可飽和吸収 ミラー(以下SESAM)が設置されておりErがドープされた光ファイバを増幅媒体に用いています。種光源として半導体レーザーなどを用い、WDMカプラを介してErドープファイバを励起します。パルス間隔はファイバ長によって決定され、波長帯は1000~1100nmです。

比較的簡潔な構成ですが、SESAMは劣化しやすかったり入手性に難があったりと動作不良・故障の原因となることが多く、近年ではこのSESAMを排除し、人工的な可飽和吸収機構を備えたファイバレーザーも登場してきています。

モードロックファイバレーザーの基本構成図

図3 モードロックファイバレーザーの基本構成

SESAMフリーの超短パルスファイバレーザー 『iQoM』 ▶▶

動作不良・故障の 原因をつくる可飽和吸収素子(SESAMなど)は使用せず、可飽和吸収機構(NALM方式)を採用することで、安定したパルス発振が実現できています。

50W出力 フェムト秒ファイバレーザー『aeroPULSE FS50』 ▶▶

実績・信頼性の高い NKT Photonics社製 フォトニック結晶ファイバをベースに開発された産業向けのオールファイバ構成のモード同期フェムト秒ファイバレーザーです。

主な用途

現代において、ファイバレーザーは様々な目的で使われています。パルスファイバレーザーの使用例をいくつか説明します。

微細加工・マーキング

加工に用いられるパルスファイバレーザは、パルス時間幅やパルス間隔を最適化することで材料への熱影響を低く抑えられます。また、ピーク強度は非常に高出力になるため処理が高速です。これらから微細加工・マーキングはファイバレーザーが得意とする分野と言えます。製品への情報印字、ロゴの刻印、レーザークリーニング、除去加工などに用いられます。

医療

ファイバレーザーの医療応用は、現在急速に広がっています。例を挙げると、超短パルスファイバレーザにより開発された超広帯域光源(SC光源:スーパーコンティニューム光源)を用いた、*3光断層計測(OCT) の眼底検査応用などがあります。また、近年では、内視鏡として利用されるファイバスコープにパルスレーザーを搭載することで、観察を行いながら結石などの異物を破砕する研究も行われるなど、より一層注目されています。

▼ 未来医療「オプトジェネティクス」にフェムト秒レーザーが活躍する?!│Vol.54

顕微イメージング(多光子顕微鏡、バイオイメージング)

細胞や微生物などの生物学的対象を観察し、細胞内の構造や動態を解析する細胞観察や、ナノスケールの材料や表面構造を詳細に観察し、材料の特性や性能を評価する材料解析など、微小な対象や構造を観察・解析するために顕微イメージング技術は幅広い分野で使われています。

顕微イメージング技術では、超短パルスレーザーの特長である、短いパルス幅で非常に高いピークパワー(光)を生成できるため、極小さなスポットサイズでの光照射が可能です。これにより、微細な構造や生体内の細胞や組織の詳細な観察が可能となります。

▼ SCレーザーがSTED顕微鏡に最適な理由│Vol.33

▼ 多光子顕微鏡原理紹介/ファイバレーザー応用│Vol.94

実験事例のご紹介


【iQoMを活用した実験事例資料】
実施した実験を基にしたデータや、セットアップ機器など
詳細資料をご覧いただけます。
弊社では積極的に学会へ参加し、発表しております。
実際に使用した『iQoM』の学会発表資料も
ご覧いただけます。

3. まとめ

  • ● パルスレーザーは、マイクロ秒レーザー、ナノ秒レーザー、ピコ秒レーザー、フェムト秒レーザーなど パルス幅で区分されます。
  • ● 高水準なエネルギー変換効率、ビーム品質、出力、メンテナンス性を持ち、微細加工、マーキング、医療など多くの分野で使用されています。
  • ● 常にレーザーを射出するCWレーザーと、一定間隔で射出を繰り返すパルスレーザーが存在します。パルスレーザーは、パルス時間幅によっては
    超短パルスレーザーなどとも呼ばれ、パルスの形成方法も変わってきます。

4.用語集

用語意味
*1 モード同期(モードロック)共振器内には縦モードの波長の異なる光が存在するが、その位相が一定の状態のこと。
*2 可飽和吸収強度の低い光は遮断(吸収)し、強度の高い光は透過する現象。
*3 光断層計測(OCT)光の干渉原理を用いて物体の断層画像を取得する計測。

« 筆者紹介 »

福田 渓人 博士前期課程 M1

埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報専攻 電気電子物理工学プログラム 塩田研究室在籍。
主な研究テーマは「二次元シングルショット光計測を用いた表面形状検査システムの研究」
セブンシックス株式会社技術顧問である塩田 達俊 准教授のもと、研究に取り組みながら企業へのインターン活動なども積極的に行っている。