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【基礎】ファイバレーザーとは?発振原理や構成について解説!

#ファイバレーザー

1. ファイバレーザーとは?

ファイバレーザーとは光ファイバを媒質として光を増幅することで、特定の波長で高出力を得ることが出来るレーザーです。この記事ではファイバレーザーの原理や特徴だけでなく、種類や用途などについても解説します。

レーザーとは

レーザー とはLight Amplification by Stimulated Emission of Radiationの頭文字を取ったもので、日本語では“*1 誘導放出による光の増幅”です。レーザーの特徴に「いろいろな光が混じっていない、位相の揃った直線に進む光」というものがあり、指向性と収束性に優れた単一波長の電磁波(光)を発生させます。

現在、レーザーには固体レーザー、液体レーザー、ガスレーザー、ファイバレーザー、半導体レーザー などの多くの種類が存在しますが、それぞれパワーや波長帯といった要素が異なってきます。

ファイバレーザーの原理

ファイバレーザーは固体レーザーの一種です。増幅媒体として光ファイバを用いてレーザー光を得ます。下記画像は、一般的にファイバレーザーに用いられることの多いダブルクラッドファイバの模式図と屈折率分布です(図1)

ダブルクラッドファイバは、希土類元素(Yb,Er,Tm,Ndなど)を *2ドープ(添加)した石英ガラスなどの材質をコアに用い、その外側に励起光の通る第一クラッドがあります。また、ファイバの入射側には高反射ミラー、射出側には低反射ミラーを設置することでレーザー光が射出側から放出されるようにします。

励起光が入射されると、その光は第1クラッドを通り、第2クラッドとの境界で *3全反射 を起こして伝搬されていきます。その間のコアを通る際に、基底準位と準安定準位に反転分布が生じて光が放出されます(誘導放出)が、この現象がミラー間で繰り返され、閾値を超えると“レーザー発振”となります。

図1 ダブルクラッドファイバの構造と増幅原理

ファイバレーザーの特徴

レーザーは、その発振媒体の種類により、固体レーザー、液体レーザー、気体レーザーに大別することができます。
(よく比較されるレーザーについては”4. よく比較されるレーザー”を参照ください)ファイバーレーザーは固体レーザーにあたり、他のレーザーと比較して多くの特徴があります。

・高効率
ファイバレーザーは微細で長いファイバ内に光を閉じ込めて発振させるため、高いエネルギー変換効率、高いビーム品質(集光性)が得られます。(変換効率→YAG:3%,ファイバレーザー:30%)

・高出力
小型で大きな表面積を持つため、冷却も容易で高出力化が可能です。

・高メンテナンス性
全て光ファイバで構成されるため、構造が簡潔で微塵の影響を受けにくく、光軸のずれなども起こりにくい高いメンテナンス性も持ち合わせています。

・波長選択性
コアにドープする希土類元素によって出力波長を選ぶことができます。

以上の特徴から、切断・溶接などの加工分野や医療分野を始めとし、様々な分野で利用されています。

2. ファイバレーザーの種類と構成

ファイバレーザーと一言でいっても、その種類は様々です。以下では代表的なCWレーザー、パルス発振レーザー(波長別)について解説します。

CWレーザー

CWはContinuous Waveの略で、連続発振レーザーとも呼ばれますが、一定の出力を連続して発振する(図2)ことのできるレーザーを指します。

CWレーザー出力の図

図2 CWレーザー出力

CWレーザー(図3)は連続でビームを照射するため、安定した綺麗な加工を求められる溶接・切断工程で用いられています。従来から用いられてきたYAGレーザーとファイバレーザーを比較すると、ファイバレーザーの方がビーム品質を高く保ち、照射面を小さくすることができるので、より微細で深い加工することができます。しかし、費用対効果を考えるとYAGレーザーも多く用いられています。

CW動作シングルモードファイバーレーザーの基本構成

図3 CW動作シングルモードファイバレーザーの基本構成

ハイパワー CWレーザー
出力: 500 ~ 3000W ▶▶

特殊光ファイバの製造メーカである、CorActive社の
プラグ&プレイ設計、メンテナンスフリー小型高出力ファイバレーザーです。


CWファイバレーザー発振器
(高出力ファイバレーザエンジン) ▶▶

FBG、コンバイナ、Ybダブルクラッドファイバ、クラッドポンプストリッパ、高出力デリバリファイバがモジュール化されており、高出力のレーザーダイオードを光ファイバ融着接続することでkWレベルのレーザーが製造できます。

パルスレーザー

パルスレーザーは、先のCWレーザーとは異なり、一定の繰り返し周波数で光が出力されるレーザーです。(図4) 
パルス幅の違いからマイクロ秒レーザー、ナノ秒レーザー、ピコ秒レーザー、フェムト秒レーザーなどと区分されます。

パルスレーザーの出力は以下の式のようになります。

平均出力 [W] = 1パルスエネルギー [J] × 繰り返し周波数 [Hz]

パルスレーザー出力

図4 一定の繰り返し周波数で光が出力される

また、1パルスのピーク強度は以下の式で求められます。

1パルスのピーク強度 計算式

1064nmナノ秒パルスレーザー
出力: 20 ~ 100W
『NANOPEAK』シリーズ ▶▶

35%のウォールプラグ効率 – 全体の消費電力を削減。
デモ機のご用意もございますので、使用ご検討の方は
ぜひお問合せくださいませ。


パルスを得るためには以下のような方式があります。

方式特徴
直接変調法種光源 (LD)を電流制御で直接ON⇔OFF することでパルスを得る。
外部変調法CWレーザーの出力を外部変調器でON⇔OFF することでパルスを得る。
Qスイッチ法共振器内のQ値(Quality Factor)を一気に高めることでパルスを得る。
*4モード同期法共振器内の縦モード間の位相関係を利用してパルスを得る。

超短パルスレーザー

超短パルスレーザーはパルスレーザーの中でもパルス幅が数ピコ秒~数フェムト秒のレーザーを指します。極めて短時間にパルスが発生し、電気信号では到達できない領域であるため、高速な化学反応過程や分子運動の解析を行うことができます。

パルスレーザーの発振方法は先述の通り変調法、Qスイッチ法、モード同期法がありますが、超短パルスレーザーの発振はモード同期法が用いられます。最もシンプルなモードロックファイバレーザーの構成を図に示しました(図5)。この共振器は*5 可飽和吸収ミラー(以下SESAM)が設置されておりErがドープされた光ファイバを増幅媒体に用いています。

種光源として半導体レーザーなどを用い、WDMカプラを介してErドープファイバを励起します。パルス間隔はファイバ長によって決定され、波長帯は1000~1100nmです。比較的簡潔な構成ですが、SESAMは劣化しやすかったり入手性に難があったりと動作不良・故障の原因となることが多く、近年ではこのSESAMを排除し、人工的な可飽和吸収機構を備えたファイバレーザーも登場してきています。

モードロックファイバレーザーの構成図

図5 モードロックファイバレーザー

50W出力 フェムト秒ファイバレーザー『aeroPULSE FS50』 ▶▶

実績・信頼性の高い NKT Photonics社製 フォトニック結晶ファイバをベースに開発された産業向けのオールファイバ構成のモード同期フェムト秒ファイバーレーザーです。

超短パルスファイバレーザー
『iQoM』 ▶▶

波長: 1040 / 1064 nm の2波長でご用意。
波長976nmの半導体レーザーと組み合わせることで、時間幅がピコ秒の光パルスが発生する全光ファイバモジュールです。

3. ファイバレーザーの使用用途

現代において、ファイバレーザーは様々な目的で使われています。本節ではファイバレーザーの使用例をいくつか説明します。

加工(切断・溶接)

ファイバレーザー(Yb添加)は1030~1070nmの基本波長を持ち、加工分野でよく用いられるCO2レーザーに比べて、金属の吸収率が高く反射の影響が小さいため加工が容易です。近年ではより高出力の機器が求められる傾向にあります。
CO2レーザーと比較した際のファイバレーザーのメリットは以下になります。

  • 高反射材(真鍮・銅・アルミ)の加工が容易
  • 加工が非常に高速
  • メンテナンスが容易でランニングコストが安い

しかし加工面が綺麗で、非金属材料にも加工を行うことができるので、まだこの点はCO2レーザーに分があります。
ファイバレーザーは大量生産向きとも言えます。

微細加工・マーキング

加工に用いられるパルスファイバレーザは、パルス時間幅やパルス間隔を最適化することで材料への熱影響を低く抑えられます。また、ピーク強度は非常に高出力になるため処理が高速です。これらから微細加工・マーキングはファイバレーザーが得意とする分野と言えます。製品への情報印字、ロゴの刻印、レーザークリーニング、除去加工などに用いられます。

通信

ファイバレーザーは海底ケーブルなどにも使われています。元々海洋中では光ケーブルを電気信号に戻して増幅し、再度光ケーブルで送るという中継器が必要でしたが、Er添加ファイバが開発されたことにより光を光で増幅することが可能となり、電気を必要とする中継器が必要なくなりました。現代でもファイバレーザーは光通信における増幅器として用いられています。

医療

ファイバレーザーの医療応用は、現在急速に広がっています。例を挙げると、超短パルスファイバレーザにより開発された超広帯域光源( SC光源: *6スーパーコンティニューム光源 )を用いた、*7光断層計測(OCT) の眼底検査応用などがあります。また、近年では、内視鏡として利用されるファイバスコープにパルスレーザーを搭載することで、観察を行いながら結石などの異物を破砕する研究も行われるなど、より一層注目されています。

4. よく比較されるレーザー

種類特徴主な使用シーン
CO2レーザーCO2ガスを利用してレーザー光を得るマーキング・切断などの工業用途
YAGレーザーイオン添加結晶を利用してレーザー光を得る脱毛・シミ除去などの医療用途
UVレーザー 紫外線の波長帯域のレーザー光を発振するあらゆる素材への微細加工

CO2レーザー

CO2レーザーは、気体レーザーの一種で増幅媒質としてCO2ガスを利用します。工業分野では10.6μm程度の赤外線を射出し、一般的なレーザーの中では最長の波長帯です。エネルギー変換効率は10~15%程度でファイバレーザーの30%に比較し低くなっています。レーザー光を得る際は発振管内にCO2ガスを封入し、上下に設置された電極によってプラズマを発生、ミラー間で光を往復させて射出します。熱により加工するので透明材質に対しても加工が可能で、ガラス・プラスチック・木材・ゴム等多くの物に使われます。しかしながら、金属加工には不向きです。

YAGレーザー

YAGレーザーは固体レーザーの一種です。YAGはイットリウム(Yttrium)、アルミニウム(Aluminum)、ガーネット(Garnet)の頭文字から来ています。更にネオジウム(Nd)を 添加 したものはNd:YAGレーザーと呼ばれ工業・医療用レーザーとして、エルビウム(Er)を添加したものはEr:YAGレーザーと呼ばれ医療用などに使用されています。エネルギー変換効率はランプ励起の場合3%で、半導体レーザーでの励起でも15%程度です。

UVレーザー

UVレーザーは、射出されるレーザーの波長が紫外線領域となるので UV(紫外線)レーザーと呼ばれています。 UV レーザーはガスレーザーであるエキシマレーザーと UV 固体レーザーに大別されますが、主に産業分野では固体レーザーが用いられ、第3高調波(355nm)や第4高調波(266nm)の波長帯で用いられます。近年では5倍波の光源も発表されています。

UV レーザーの基本原理は、YAGレーザーを元にしています。YAGレーザーの基本波(1064nm)に波長変換素子を適用しグリーンレーザー(532nm)に、更にもう一つ適用し UV レーザー(355nm)に変換します。波長が短くなる毎に出力は低下しますが集光性が上がるので極小範囲に高エネルギーを照射することが可能です。微細加工に適しており半導体や精密部品などに用いられます。

5. まとめ

  • ● ファイバレーザーは、光ファイバを使って光を増幅させたレーザーです。ダブルクラッドファイバが使用されています。
  • ● 高水準なエネルギー変換効率、ビーム品質、出力、メンテナンス性を持つので、切断、溶接、微細加工、マーキング、通信、医療など多くの分野で使用されています。
  • ● 常にレーザーを射出するCWレーザーと、一定間隔で射出を繰り返すパルスレーザーが存在します。パルスレーザーは、パルス時 間幅によっては超短パルスレーザーなどとも呼ばれ、パルスの形成方法も変わってきます。

6. 用語集

用語意味
*1 誘導放出外部光により物体のエネルギー準位が下がり、その分のエネルギー(光)が放出される現象。この光は外部光と同じ位相、周波数、偏光を持つ。
*2 ドープ添加
*3 全反射光が物体に入射する際、その光は反射光と透過光に分かれるが、入射角が一定以上になると全ての光が反射されて透過する光が一切なくなる現象。
*4 モード同期(モードロック)共振器内には縦モードの波長の異なる光が存在するが、その位相が一定の状態のこと。
*5 可飽和吸収強度の低い光は遮断(吸収)し、強度の高い光は透過する現象。
*6 スーパーコンティニューム光源広い光スペクトルを有する光源。超広帯域光源とも呼ばれ、通常パルス光である。
*7 光断層計測(OCT)光の干渉原理を用いて物体の断層画像を取得する計測。

« 筆者紹介 »

福田 渓人 博士前期課程 M1 ※2023年3月現在

埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報専攻 電気電子物理工学プログラム 塩田研究室在籍。
主な研究テーマは「二次元シングルショット光計測を用いた表面形状検査システムの研究」
セブンシックス株式会社技術顧問である塩田 達俊 准教授のもと、研究に取り組みながら企業へのインターン活動なども積極的に行っている。