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レーザーの仕組み― 発光原理や特徴について

#ファイバレーザー

1. レーザーの仕組み

レーザーとは

レーザー(LASER)はLight Amplification by Stimulated Emission of radiation(直訳:誘導放出による光増幅放射)の頭文字をとった略称です。レーザーは特定の物質に電気や光などのエネルギーを与え、 *1励起 させることで発生する人工的な電磁波であり、単色性、指向性の高さ、*2可干渉性 などの特徴をもっています。

レーザーの原理

原子(分子)はエネルギーを吸収すると、エネルギー準位がより高い状態へと移り、励起された状態となります。しかし、この励起状態は不安定であるため、エネルギーを放出して低いエネルギー準位へと時間の経過により移ろうとします。

この高いエネルギー準位から低いエネルギー準位へと遷移するときに、エネルギーの差分に相当する光を放出します。この現象を自然放出と呼ばれています。放出された光が、励起状態の他の原子(分子)に衝突して、低いエネルギー状態への遷移を促します。これにより光が放射されることを誘導放出といいます。この誘導放出を繰り返して出力を高めてレーザーは電磁波を発生させています。

励起

原子(分子)に外部から光を入射すると、原子中の電子がエネルギーを吸収して、電子が元の準位よりも高い準位、エネルギー状態に移ります。電子はエネルギーが高くなると、原子核を中心とする電子が運動する軌道が外側へと移ります。このエネルギー準位が高まっている状態を励起といいます。

自然放出

電子は吸収したエネルギーの大きさに応じて、高いエネルギー準位へ移ります。エネルギーを高められた電子は時間経過により、エネルギーを放出して、低いエネルギー準位へと移ろうとします。このとき、エネルギーは光として放出されます。この電子が高いエネルギー準位から低いエネルギー準位へと自然に移り、光を放出することを自然放出といいます。

エネルギーギャップと自然放出の様子

エネルギーギャップと自然放出


誘導放出 

ある物質中の電子が定常状態以上のエネルギーをもっているとき、すなわち励起状態にあるとき、この電子がもつエネルギーと同じエネルギーの大きさを持つ光が入射されると刺激されて、同じエネルギー(波長)、 *3位相 、進行方向をもった光を放出します。これを誘導放出といいます。

エネルギーギャップと誘導放出の様子

エネルギーギャップと誘導放出

反転分布状態

レーザーでは誘導放出を起こして、発振させるには低いエネルギー準位より高いエネルギー準位にある電子の密度を高めておく必要があります。この高いエネルギー準位の電子密度が大きい状態を反転分布といいます。

2. レーザーの特徴

レーザー光と一般光の違い

レーザー光は、自然の光や蛍光灯の光などとは、異なる以下のような特性をもっています。

コヒーレンス

コヒーレンスは、レーザー光の最も大きな特徴の一つであり、光の波長の干渉のしやすさを表します。一般の自然放出の光は、波の位相、エネルギーはランダムであり、干渉性は低いですが、レーザー光は誘導放出により増幅して発振しているため、位相、波長が揃っています。

同じ光源同士、別光源同士で波が1か所に集まった時、位相や波長に条件が整えば重ねて合わせることができ、これを干渉といいます。レーザーのコヒーレンスには2種類あり、異なる時間(異なる経路差)に発振した光の干渉に関わるものを時間的コヒーレンス、同時刻に異なる場所から発振した光の干渉に関わるものを空間的コヒーレンスといいます。

3. レーザーの波長・分類

レーザーは固体レーザー、気体レーザー、液体レーザーなど様々な種類の開発が進められています。それぞれ発振媒体、発振器の構造が異なり、対応している波長も異なります。波長ごとに物質の吸収率や加工の仕上がりが異なるため、用途や素材に合わせてレーザーを選択する必要があります。

以下に、代表的なレーザーついて分類(気体、固体、液体レーザー)をしながら解説していきます。

レーザーの種類  代表例 発振波長概要用途例
気体レーザーCO2レーザー    赤外域(10600nm)ヘリウム、窒素を混合したCO2ガスを媒質として放電により励起されます。そして赤外域のレーザー光(波長:10600nm)を発振します。水やガラスといった透明な材料も加工することができ、紙や木材など様々な素材を加工することが出来ます。加工機やマーキングで金属の切断・加工・溶接
エキシマレーザー紫外域(193nm)紫外域(波長:193nm)における高出力レーザーです。CO2レーザーなどの赤外域レーザーと異なり、熱を発生させないためより微細な加工が可能となります。不活性ガスとハロゲンガスを混合したものを媒質として、放電することで紫外域のレーザー光を発振します。微細加工(半導体露光や医療(眼の手術)など
アルゴンレーザー可視部:488nm/ (青)、514.5nm (黄緑)        
紫外部:351.1nm 、363.8nm)
アルゴンレーザーは希ガスであるアルゴンに放電した、アルゴンイオンを利用して発振するレーザーで紫外域、可視域の青と緑、近赤外域で発振が可能で、可視域で連続した出力が可能で、強い可視域の電磁波が必要な分野で使用されています。色素レーザー、医療分野など
個体レーザーYAGレーザー赤外域(1064nm)Yttrium(イットリウム)、Aluminum(アルミニウム)、Garnet(ガーネット)からなる結晶に、微量の発光素子である希土類元素Nd(ネオジウム)をドーピングしたものを媒体とした個体レーザーです。発振波長は基本波長の1064nm、第2高調波(グリーンレーザー)の532nm、第3高調波(UVレーザー)の355nmが出力出来ます。
YAGレーザーはCO2レーザーよりも金属に対する吸収率が優れており、光ファイバでエネルギー伝送が可能などのメリットがあります。
溶接・加工、医療・美容など
ファイバレーザー赤外域(1030~1100nm)光通信以外に応用される高出力のレーザーとして、主に *4Yb(イッテルビウム) が添加されたものが開発されています。半導体レーザー(LD)によって励起して1030~1100nmの波長帯で発振します。ファイバーレーザーは高出力が容易、エネルギー効率が高い、小型化が可能などのメリットがあります。金属加工・溶接
半導体レーザー(LD)(元素の組み合わせで発振波長の選択が可能)個体である半導体を素材とした回路素子に電流を流すことで発振するレーザーですが、普通の個体レーザーとはエネルギー構造とポンピングが異なるレーザーです。主な半導体レーザーは周期表のⅢ族元素のアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)と5族元素の窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)の中から2種類以上の元素からなる半導体が使用されます。半導体レーザーは元素の組み合わせで発振波長の選択が可能なため、様々な発振波長の半導体レーザーが開発されています。光通信、測定、記録・読み取り
液体レーザー色素(dye)レーザ可視域(585nm)色素レーザーは、色素をアルコールや水に溶かしたものを媒質としてレーザー光により励起して発振します。広い波長帯域で連続的に波長可変が可能です。理化学的・医療分野

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4. まとめ

  • ● レーザーには多数の媒体、構造があり、発振するレーザー光には一般光とは異なる単色性、指向性の高さ、可干渉 性に優れているという特性をもっている。
  • ● 医療、金属加工、レーザー加工、通信や計測の幅広い分野で応用されており、今後も自動運転技術における LiDARや次世代通信規格など幅広い分野で期待されています。

5. 用語集

用語意味
*1 励起安定した状態の原子や分子が、外部からのエネルギーを受けてエネルギーの高い状態へ移ること
*2 可干渉性(コヒーレンス)光の波長の干渉のしやすさ のこと
*3 位相電波や電流が発生する周期的な波形のうち、同じ地点に相当する個所を測った位置や状態のこと
*4 Yb(イッテルビウム)ランタノイド系のレアメタルで、主な用途としてはガラスの着色料やレーザーへの添加剤、コンデンサ、触媒など。

« 筆者紹介 »

内山 遼 博士前期課程 M1 ※2023年3月現在

埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報専攻 電気電子物理工学プログラム 塩田研究室在籍。
主な研究テーマは「超高速任意波形計測に向けた光周波数コムを用いたシンセサイザ/アナライザの研究」。
セブンシックス株式会社技術顧問である塩田 達俊 准教授のもと、研究に取り組みながら企業へのインターン活動なども積極的に行っている。