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光ファイバの基礎知識 – 構造・種類・材質・用途 – を知る

#光ファイバ部品

光ファイバは今では様々なところで用いられています。そんな光ファイバについて基本的な原理や、どのような種類が存在して実際どのように使われているのか解説します。

1. 光ファイバとは

光ファイバ(Optical fiber)は、光を離れた場所に伝えることができる伝送路で、透明度の高い石英ガラスやプラスチックなどでできています。1本1本は細い繊維のような形ですが、光を高速で伝えることが可能で、近年では光回線などで用いられることから日常でも耳にすることが多くなっています。

光ファイバ

光ファイバの仕組み

光ファイバは、基本的にはコア、クラッド、被膜と呼ばれる3層構造になっており、中心に屈折率の高いコア、その周囲に屈折率の低いクラッド、露出部全体を覆うように被膜が位置しています(図1)。

図1 光ファイバ断面図

光は、屈折率が一様な物体の中は直進しますが、屈折率の異なる境界面では屈折や反射といった現象を起こします。光ファイバに入ってきた光はコアの内部を進みますが、クラッドとの境界面で*1全反射することでコア内部に閉じ込められ、離れた場所まで伝搬されます。これが光ファイバの原理となります。

2. 光ファイバの特徴

光ファイバが発明されてから現代に至るまで、多くの新技術や新製品が誕生してきました。本章では、それらの数ある光ファイバの特徴を解説していきます。

光ファイバの種類

光ファイバは、構造や材質によって種類分けされますが、主なカテゴリは図のようになります。

図2 光ファイバの分類

表を見ると、シングルモードファイバ(SMF)マルチモードファイバ(MMF)の2種類のファイバに大きく分けられていることがわかります。これらは構造の違いにより分類されていますが、詳しい解説は次の節で行っています。

また、ダブルクラッドファイバと呼ばれるものも存在しますが、ダブルクラッドファイバは、クラッドが二重構造になっており、シングルモードとマルチモードのどちらにも対応しています。コアには希土類元素をドープした材料が用いられ、ファイバーレーザーの発振などに使われます。

ダブルクラッドファイバ
取扱いラインナップ ▶▶

✓マルチコアファイバ増幅用
✓マッチファイバ、ビームデリバリーファイバ、減衰、感光性、 非線形ファイバ
 ご要望をお申し付けください。

フォトニック結晶ファイバ(PCF : Photonic Crystal Fiber)は、断面に空孔や高屈折率なガラスを規則的に配置した構造を持つファイバです。この構造により、非線形性や波長特性などを高度に制御したファイバです。PCFは導波原理の違いにより、全反射を利用した屈折率導波型と*2 ブラッグ反射を利用したフォトニック・バンドギャップ型に細かく分類されます。
PCFの使用例として、高強度パルスレーザーを導波することで広帯域に広がる*3 スーパーコンティニューム光(SC光)発生や光波長多重通信などに応用されます。

フォトニック結晶ファイバ
取扱いラインナップ ▶▶

✓光をシングルモードで、かつ低ロスで伝搬が可能
✓高ピークパワーの超短パルスファイバレーザ増幅器用
 その他ご要望お申し付けください。

シングルモードとマルチモード

光がファイバに閉じ込められて導波されるためには、コアとクラッドの界面付近を節とする定在波が存在する必要があり、この条件を満たす光を”伝搬モード”と呼びます。特定の波長の光を用いると、上記の条件は離散的になるため、伝搬モードも離散的になります。

シングルモードファイバでは、ファイバ中を伝搬できる伝搬モードは1つしかありません。対して、マルチモードファイバは複数のモードが伝搬可能です。コアの屈折率が一様なステップインデックス(SI)型と屈折率が徐々に変化するグレーデッドインデックス(GI)型に分けられます。

大分類中分類特長
マルチモードSI型MMFコアを太くすることでマルチモードに対応したファイバです。コアの屈折率が一定なので、伝搬角度の大きなモードほど伝搬距離が長くなります。この光路差による伝搬速度の違いを*4 モード分散といい、SI型MMFではこのモード分散が大きいです。光高速通信においてはモード分散の影響による光信号の歪みによって、正しく信号を伝達できないことがあります。そのため、通信では使われませんが光のパワー伝送などには使用されます。
GI型MMFコアの中心から周辺に向かって屈折率を減少させることで、中心部を直進する伝搬モードは速度が遅いが距離が短く、周辺部を通る伝搬モードは速度が早いが距離が長くなります。屈折率分布を適切な値にすることで、各モードの伝搬時間を等しくすることが可能なため、モード分散を非常に小さくできます。短距離・大容量の通信などで使用されます。
シングルモード汎用シングルモード(SM)コアを細くすることで、伝搬モードを一つに限定したファイバです。日常生活においては最も利用されています。モード分散が生じないため高品質で安定した光を送ることができます。
分散シフトシングルモード(DSF)*6 零分散波長を汎用シングルモードより高めに設定した光ファイバです(SM:1310nm付近→DSF:1550nm)。石英系ファイバの伝送損失が小さい1550 nm帯をゼロ分散波長にすることで、長距離伝送に適しています。
非ゼロ分散シフトシングルモード(NZ-DSF)分散シフトモードから更に少しだけ零分散波長をずらした光ファイバです。他のファイバより非線形効果を抑制します。光波長多重通信に適しています。

光ファイバの材質

光ファイバは材質によって使用できる波長帯が決まります(図3)。今回は石英ガラスファイバ、多成分ガラスファイバ、フッ化物ガラスファイバ、カルコゲナイドファイバ、プラスチックファイバの波長図3帯を図にしました。また、一般的にライトガイドなどに用いられ石英ファイバの代替とされることがある液体ファイバも記載しています。

図3 光ファイバ材質による使用可能波長帯域

3. 光ファイバの用途

光通信

光通信では光ファイバ内に伝播する光信号を電気信号に相互に変換することで行います。光信号には主に単一波長レーザーが用いられます。これは、位相が揃っているのでパワーが強く、波長による伝搬速度の差も生じないことが理由です。

しかし、一般的に情報処理は電気信号で行います。そこで通信では、変換器を用いることで、“0”や“1”の電気信号を光に変換し、再度変換することで高速通信を可能にします。これらの技術は、半導体レーザーやLEDといった発光素子と、*7 フォトダイオードのような受光素子の発明によって実現されました。

光波長多重通信(WDM通信)

波長が異なる光は、それぞれ独立して伝搬します。この原理を利用して、1本の光ファイバ内に多数波長の信号を送ることで、大容量通信が可能になります。このような通信方法は”光波長多重通信(WDM)”と呼ばれ、現在の情報社会を支える技術となっています。

医療

光ファイバは、取り回ししやすく小型でありながら、映像などの情報を送ることが出来る高い汎用性を持ちます。そのため、光ファイバを計測機器に用いることで、患者への負担が少ない診断治療機器として応用研究が盛んに行われています。
応用例をいくつか紹介します。

複合型光ファイバスコープ

従来の内視鏡は、直径3~10mm程度の太さがあり、痛みや不快感など患者への負担が大きいものでした。複合型光ファイバスコープは、映像用ケーブルと照明用ケーブルを光ファイバに置き換えたことにより、直径1mm程度で作成でき患者への負担低減を実現しました。また、その細さを活かして肺の末梢や子宮奥部に到達し癌治療を行うなど、かつてない治療を可能にしています。

光断層計測(OCT)

光断層計測は、光の干渉原理を用いて物体の断層画像を取得することができる計測です。非侵襲で高分解能の検査が可能で、眼科の眼底検査で実績があります。歯科医療分野や皮膚医療分野などで応用研究されています。

この計測では、軸を合わせる必要がありますが、光ファイバを用いることで計測位置の自由度や安定性を飛躍的に向上しています。

計測

光ファイバをセンサ部として利用することで、温度・歪み・振動などの計測が可能になります。よく知られている方法として、FBG(Fiber Bragg Grating : ファイバ・ブラッグ・グレーティング)センサや蛍光式温度センサがあります。いずれもファイバにレーザーを入射し、戻ってきた光を計測します。FBGは温度や歪みの状態によって格子間隔に変化が生じます。

この変化は光スペクトルの変化として現れ、変化量を読み取ることで温度、歪みを計測します。蛍光式温度センサの場合、ファイバ先端の感温部に蛍光体が用いられます。ファイバ先端から出力されるパルスレーザーを受け、この蛍光体は蛍光します。蛍光時間(蛍光寿命)は温度状態によって変化するため、この蛍光寿命を読み取ることで温度を測定することができます。

光ファイバセンサの主なメリットは、

  • ● 電気を使わない非引火性
  • ● 電磁波、放射線の影響を受けない
  • ● 雷サージに強い
  • ● 長距離をファイバ1本で計測可能
  • ● 高いメンテナンス性

    が挙げられ、電気式の計測器では設置が難しい過酷な環境に用いられます。

    4. まとめ

    • ● 光ファイバは、透明度の高い材質で繊維状に形成された、光を離れた場所に伝えることができる伝送路です。
    • ● 基本的にはコア、クラッド、被膜と呼ばれる3層構造になっており、種類によって構造が異なります。
    • ● 主にマルチモードファイバとシングルモードファイバに分けられ、伝搬可能なモード数が異なります。
      また、クラッドが二重構造になったダブルクラッドファイバ、断面に空孔や高屈折率なガラスを規則的に配置した
      フォトニック結晶ファイバといったものも存在します。


      光ファイバの融着・コネクタ付

      光ファイバを使ったシステムでは、光ファイバの先端にコネクタ(SC、FC、LCなど)が付いていますが、メーカの標準品についているコネクタが必ずしもお客様が必要とするコネクタと同一とは限りません
      そのような時、弊社保有の光ファイバ融着機か、光ファイバコネクタ化装置を用いて、光ファイバの取り付け、交換、修理をいたいます。 お問い合わせはこちら

      5. 用語集

      用語意味
      *1 全反射光が物体に入射する際、その光は反射光と透過光に分かれるが、入射角が一定以上になると全ての光が反射されて透過する光が一切なくなる現象。
      *2 ブラッグ反射3次元の周期構造体に光を当てると、特定の入射角で強め合い・弱め合いが生じ、あたかも鏡のように反射する現象。
      *3 スーパーコンティニューム(SC)光源広い光スペクトルを有する光源。超広帯域光源とも呼ばれ、通常パルス光である。
      *4 モード分散ファイバ内を伝搬する光において、伝搬モード毎の伝搬角度の差から伝搬距離の差。
      *5 波長分散ファイバ内を伝搬する光において、波長が広がりを持つことに由来する波長毎に伝搬速度の差が生じる現象。ファイバ材料に起因する材料分散と、ファイバ構造に起因する構造分散がある。
      *6 零分散波長波長分散が0 ps/nm/km である波長であり、波長分散による光信号の歪みが生じない波長である。
      *7 フォトダイオード光の検出が可能になる素子。フォトディテクタ(光検出器)の1つ。光が受光部に照射されると光電効果により電流が生じることで光を検出する。

      « 筆者紹介 »

      福田 渓人 博士前期課程 M1 ※2023年3月現在

      埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報専攻 電気電子物理工学プログラム 塩田研究室在籍。
      主な研究テーマは「二次元シングルショット光計測を用いた表面形状検査システムの研究」
      セブンシックス株式会社技術顧問である塩田 達俊 准教授のもと、研究に取り組みながら企業へのインターン活動なども積極的に行っている。