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波長分割多重(WDM/CWDM/DWDM)について
光ファイバ通信において重要な役割を果たし、関連装置の世界的な市場の成長が見込まれる波長分割多重 (WDM: Wavelength Division Multiplexing) 技術。本記事では、その技術の概要や用途について解説していきます。
WDMとは?
光ファイバ通信における波長分割多重 (WDM: Wavelength Division Multiplexing) 技術は、光通信の高速化と効率化を実現するための技術です。WDMは、複数の異なる波長を持つ光にそれぞれ信号を与え、すべての光を多重化させて1本の光ファイバ内で同時に送信する技術で、通信容量を大幅に増加させることができます。
例えば、WDMを用いずに単一の波長を用いた場合、1芯あたり 2.5~10Gbps が限界ですが、4波多重すると、10~40 Gbps での伝送が可能になります。最近では、インターネット利用者数やネットワークトラフィックの増加に伴って、大容量光通信ネットワークの基幹であるWDMの需要が大きく高まっています。
図1 WDMの概念図
WDMの種類と技術の違い
WDMの利用の増加に伴って、低コスト化を実現する技術やより大容量の通信を行う技術の開発が行われてきました。
ここでは、*1 ITU-T(国際電気通信連合 電気通信標準化部門) が定めた規格である「粗波長分割多重 (CWDM: Coarse WDM) 」と「密度波長分割多重 (DWDM: Dense WDM) 」について解説していきます。
CWDMの技術と特徴
CWDMは使用波長帯域が 1271~1611nm と広く、チャンネル毎の帯域が 20nm 程度と広い低密度のWDMです。波長範囲が広いことで送れる信号量は少なくなりますが、光学部品や機器の製造が比較的簡単でコストを低く抑えられます。
この中でも特に、*2 光透過率 が高く、伝送損失の少ないCバンドとLバンドがよく用いられます。主な用途としては、短距離通信や低コストなネットワーク で使用され、例えば、企業内のデータセンター間通信や都市間通信で利用されます。
※低コストなネットワーク・・・低コストに構築できるCWDMの特徴を利用して、企業内のデータセンター間の通信や都市間をつなぐ程度の容量・距離の通信に利用することを想定。
図2 CWDMの概念図
DWDMの技術と特徴
DWDMは前述した光透過率の高い Cバンド と Lバンド に着目して、より波長を細かく細分化し、1本のファイバで非常に高いデータ容量を実現するWDMです。したがって、使用波長帯域は 1525~1610nm と狭く、チャンネル毎の帯域は 0.8nm 以下と制御に高い精度を求められ、比較的コストが高くなる傾向にあります。長距離通信や大容量通信に向いており、主な用途としては、国際間通信や大規模な通信ネットワーク、データセンター間接続などで広く使われています。
図3 DWDMの概念図
WDMにおける光周波数コムの役割
光周波数コムの原理
光周波数コムは、光信号の周波数が均等に間隔を空けて並ぶ構造を持つ信号で、非常に高い周波数精度と安定性を持ちます。したがって、光周波数コムを用いることで、複数の波長を精密に生成でき、WDMシステムの設計が容易になります。
特に、フラットなスペクトルが並ぶような光周波数コムでは、複数の波長信号を干渉なく安定的に伝送し、全体的な通信品質を高めることができます。
図4 光周波数コムの概念図
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実際の応用と実例
実際にWDMと光周波数コムを掛け合わせ、大量の光信号を光速に伝送することを実証した研究が2017年のNatureで報告されています。
(記事:nature ダイジェスト 1つのリングで90個のレーザーを代替)
この研究ではマイクロメートルスケールのプラットフォーム上で微小共振器光周波数コムを用い、伝送距離 75km で毎秒 50テラビット(1テラビットは1012ビット)を超えるデータ伝送速度を達成しました。
安定した光源がWDM技術のカギを握る
WDM技術を活用するには、安定した光周波数コムが不可欠です。当社の 光周波数コム『Frush』 は、一般的な通信波長帯でフラットなスペクトルを生成できるため、WDMシステムの設計に適しています。
Frushの特長
光コムを発生させる手法は、3種類あります。当社Frushの発生方式はEO変調型で、*3 EOコム とも呼ばれています。
中心波長は Cバンド および Lバンド に対応した 1550nm ± 20nm で、*4 モード間隔 であるFSRは 12-18GHz とDWDM方式に適した狭い間隔毎にフラットなスペクトルを生成することができます。
また、EOコムは使用するレーザーとRF信号の組み合わせを調整することでコムの中心周波数とモード間隔を制御することができるという特長があり、柔軟かつ幅広いアプリケーションに対応できます。
図5 EOコムの概念図
▼光周波数コムの発生方式がよくわかる解説動画
モード同期型、EO変調型、マイクロキャビティ型それぞれの光コム│Vol.84
具体的な使用シナリオ
前述したように、光周波数コムはWDMのシステム設計を簡素化します。特に、『Frush』は厳しくスペクトルを制御し、モード間隔の狭いフラットなスペクトルを生成するため、大容量の光信号を高速に伝送するDWDMシステムで通信品質を高めることが期待されます。
▼Frush のライブデモ動画
セットアップ機器の説明 から 光周波数コムの発生 までを2分ほどの動画でご覧いただけます。
今後の展望
次世代通信技術6Gに向けた展望では、1Tbps以上の伝送速度をWDMで実現することが重要です。そのため、WDMの波長数の増加に向けた、光周波数コムを利用した高密度なデータ伝送が期待されます。
光周波数コム技術とWDMを組み合わせることで、量子暗号通信(量子キー配送、QKD)や量子ネットワークにおいても、高精度な周波数管理と高帯域幅通信の実現が期待されます。
![]() | 光周波数コム発生器 Frush ✓ チャネル間隔12-18 GHz フラットな光周波数コムスペクトル ✓ 高コストパフォーマンス ✓ 19インチラックサイズ 概要カタログダウンロード:光周波数コム Frush |
まとめ
- ● 波長分割多重(WDM)は、複数の波長を使用して光ファイバ通信のデータ容量を大幅に増加させる技術です
- ● CWDMとDWDMはそれぞれ低密度と高密度なWDM技術であり、用途に応じた選択が求められます
- ● 光周波数コムは、WDMシステムの設計を精密かつ効率的にし、通信品質を向上させる重要な役割を果たしています
用語集
用語 | 意味 |
*1 ITU-T(International Telecommunication Union – Telecommunication Standardization Sector) | ITU-Tは、国際電気通信連合の電気通信標準化部門で、通信技術や標準を定める国際機関。世界中の通信技術の標準化を推進し、通信の互換性や効率性を確保している。 |
*2 光透過率 | 光信号が光ファイバを通る際の損失を表す。光透過率が高いと、信号の伝送品質を保ちながら長距離でも安定した通信が可能であることを意味する 。 主な損失要因として、光ファイバ内での光の吸収、散乱、曲げ損失などがある。 |
*3 EOコム (Electro-Optic Comb) | 電気光学技術を使用して生成される光周波数コム。この技術では、レーザーを光源として使用し、RF信号(高周波信号)を加えることによって、非常に精密な周波数間隔を持つ光のモードを生成する。これにより、光信号の周波数を高精度で制御し、光通信システムや高精度な周波数測定に利用される。 |
*4 モード間隔 | モード間隔は、光周波数コムにおける隣接する光のモード(周波数)の間隔を指す。これにより、コム内で生成される各波長(モード)がどれくらい離れているかが決まる。狭いモード間隔を持つコムは、精密な波長制御が重要となる。 |