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ミリ波テラヘルツ波の特徴と応用について解説!

#通信

5G通信などで注目されているミリ波と、その更に次世代の領域として期待されるテラヘルツ波について、特徴や用途を解説します。また、今回は通信分野以外の応用についても触れています。

ミリ波テラヘルツ波とは

電磁波は波長によって呼称が異なります。(図1)最も身近なのは目で見て色を感じることが可能な可視光でしょう。
しかし、目で見えない領域でも、波長を長くした極超短波領域は携帯電話通信などに、逆に短くしたX線領域では
医療診断などに利用されています。

ミリ波テラヘルツ波は、マイクロ波領域と可視光領域の間の領域です。この領域は、雨による減衰や酸素・水分子による吸収減衰が生じるため長距離通信には不向きですが、波長が短いので時間あたりの送れる情報量が多くなります。
そのため、近年では5Gなどの高速通信に使用され、非常に注目されている波長帯です。

図1理化学研究所 光波長変換によりテラヘルツ波を高感度に検出
-室温で動作するテラヘルツ波領域の小型非破壊検査装置の実現へ-

ミリ波とは

マイクロ波とサブミリ波の間に位置する、波長1~10mm、周波数30GHz~300GHzの領域を指します。
直進性は高いですが伝搬距離が短く、大気中の分子や降水(雨・雪)で減衰します。電波の中では波長が短いために、
アンテナを小型化することが可能で混線も起きにくく、応用が非常に進んでいる領域です。

無線LAN、通信衛星、車載レーダ、天文、VLBI、ESR、医療、核融合など多くの分野で応用されています。

テラヘルツ波とは

周波数がテラ(10 の12乗 )領域の電磁波を指しますが、広くは0.1~10THz程度の領域とされています。
電波と光の中間に位置し双方の特徴を有しますが、その発生や検出が技術的に難しく、長い間使われてきませんでした。
しかし、電磁波を発生させる半導体技術の進展などもあり、電磁波に残された最後の未開拓領域として
現在では最も注目されています。

▼ 『Frush』光周波数コムで5G/ポスト5G
ミリ波/THz波検出!!│Vol.22

マイクロ波とは

記事のタイトルから少しずれてしまいますがマイクロ波も軽く触れます。マイクロ波は波長1m~1mm、周波数300MHz~300GHzの領域を指しますが、波長1m~10cmは極超短波領域にも含まれます。あらゆる無線技術に応用され、身近な家電製品などにも多く用いられています。

衛星放送、衛星通信、GPS、天文、無線LAN、気象レーダ、船舶用レーダ、電子レンジ、電子タグなど
身の回りの多くのもので利用されています。

ミリ波テラヘルツ波の用途

現在、非常に注目を集めているミリ波テラヘルツ波ですが、実際にはどの様に使われているのか、
またはどのような応用が想定されているのか解説します。

5G通信

電磁波を語る上で通信分野は避けられません。特に、ミリ波テラヘルツ波の通信応用は今現在最も盛んであり、
世界的に注目されています。ミリ波を用いたデバイスとして挙げられるのは、やはり一番にスマートフォンです。
近年のスマートフォンは5G通信を可能にしていますが、この5G通信はミリ波領域を使用しています。
(厳密には28GHz帯を使用するため、ミリ波から少しずれていますが、ほぼ30GHzのためミリ波と呼ばれています。)

そのような5G通信ですが、大容量・高速・低遅延技術の応用は多岐にわたります。例えば、車と車で
通信を行うことで衝突を回避する自動運転技術や、地方などから高度な診断や施術を受ける遠隔医療が
想定されています。

また、*1 VRや*2 AR、*3 MRなどの技術は新しいエンターテイメントや医療などを提供します。
近年では、5Gにより*4 メタバース分野が再注目され、*5 バーチャルオフィスや*6 バーチャルショップなどが用いられるようになりました。
メタバースは今後発展する業界として非常に注目されています。

6G通信

6G通信は5Gに続く次世代の通信システムで、現在研究が進められています。研究段階のため正確な定義は無く、国際的な基準策定もこれからになります。
しかし、総務省による「Beyond 5G推進戦略 -6Gへのロードマップ-」によると、5Gと比較し10倍の通信速度・同時接続数、1/10の遅延、1/100の電力消費といった数値目標が掲げられており、「*7 Society 5.0」としてサイバー空間とフィジカル空間を一体化して課題解決を図ろうとしています。6G通信によってできるようになると考えられるものは、無線信号を用いた給電による充電不要な生活、3Dホログラムによる店舗の無人化、AIによる診断・治療、*8 超カバレッジ拡張による車両管理・自動運転などが想定されています。

各分野の細かな将来の展望は、日本の6G推進機関であるBeyond 5G推進コンソーシアムによる「Beyond 5G ホワイトペーパー ~2030年代へのメッセージ~」に記載されていますので気になった方は御覧ください。6Gの周波数としては90GHz~300GHzが想定されており、2030年以降の商業化が目標にされています。

計測

ミリ波は今まで幅広く用いられてきたマイクロ波領域より波長が短いため、対象物を高い精度で検知することが可能です。
ミリ波の吸収や散乱、回折を利用したイメージングはミリ波イメージングと呼ばれ、
「ある程度物体を透過する・分解能が高い・被爆の恐れがない」といったメリットがあるので、
手荷物検査などへの利用が期待されています。(図2

また、更に周波数の高いテラヘルツ波を利用したテラヘルツ波イメージングである
テラヘルツ時間領域分光分析技術(THz-TDS)は、分子間の弱い結合を観測できる可能性があるため、
タンパク質分析や創薬への応用が想定されています。

図2 ミリ波イメージング装置によるイメージ例
[参照]https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej/67/6/67_465/_pdf

ミリ波の計測可能な距離はマイクロ波より短いですが、赤外光線よりは長く、その点で優位性があります。
自動車衝突防止用センサやドローンの状況把握に用いられる他、近年話題になったブラックホールの撮影に
ミリ波望遠鏡が使われているなど、多くの新技術が開発されています。

医療

ミリ波テラヘルツ波の医療応用は5G通信、6G通信でも触れたように遠隔地からタイムラグのない診断や
施術を可能にしたり、AIによるビッグデータ解析より自動診断をおこなったりといったものが想定されています。

また、もっと直接的な応用になると、非接触で複数人同時に心拍数や呼吸数の計測を行い、
就寝時の状態やストレス状態をモニタリングする想定があります。こういった技術は日本の少子高齢化社会において、
限られたリソースで効果的に見守る事ができるため非常に期待されています。

まとめ

  • ミリ波テラヘルツ波はマイクロ波領域と可視領域の間に位置する波長領域です。
    ミリ波は1~10mm、テラヘルツ波は3μm~30mmに位置します。
  • マイクロ波伝送に対し、減衰が生じる、回り込みが起きにくいため長距離通信は不向きですが、
    大容量のデータを送ることが可能です。
  • 5G通信などに用いられ、自動運転や遠隔治療などの応用も想定されています。

    用語集

    用語意味
    *1 VR仮想現実(Virtual Reality)。ディスプレイやゴーグルを通じて現実とは異なる空間を体験できる。
    *2 AR拡張現実(Augmented Reality)。現実空間に仮想現実を加えることで、現実を拡張させる。
    *3 MR複合現実(Mixed Reality)。現実空間を反映した仮想現実。
    *4 メタバース仮想空間。インターネット上の世界で自分自身の分身(アバター)を操作しコミュニケーションを行うことが可能。
    *5 バーチャルオフィス仮想空間上で作り出したオフィス。そこに集まり仕事を行うことで自宅や外出先などの場所にとらわれない仕事が可能。
    *6 バーチャルショップ仮想空間上で作り出した店。
    *7 Society5.0情報社会(Society4.0)に継ぐ新たな社会。仮想空間と現実社会が高度に融合した社会。高度な人工知能がビッグデータ解析を行い現実空間に反映する。
    *8 超カバレッジ拡張今まで通信が不可能だった海や空、宇宙空間まで通信可能エリアを広げること。

    « 筆者紹介 »

    福田 渓人 博士前期課程 M1 ※2023年3月現在

    埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報専攻 電気電子物理工学プログラム 塩田研究室在籍。
    主な研究テーマは「二次元シングルショット光計測を用いた表面形状検査システムの研究」
    セブンシックス株式会社技術顧問である塩田 達俊 准教授のもと、研究に取り組みながら企業へのインターン活動なども積極的に行っている。