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ミリ波・テラヘルツ波とは? – 光周波数コムによる精密測定で広がる可能性! –

#通信

※2025年4月7日 更新

5G通信などで注目されているミリ波と、その更に次世代の領域として期待されるテラヘルツ波について、特徴や用途を解説します。また、今回は通信分野以外の応用についても触れています。

ミリ波テラヘルツ波とは

電磁波は波長によって呼称が異なります。(図1)最も身近なのは目で見て色を感じることが可能な「可視光」でしょう。しかし、目で見えない領域でも、波長を長くした極超短波領域は携帯電話通信などに、逆に短くしたX線領域では医療診断などに利用されています。

ミリ波テラヘルツ波は、マイクロ波領域と可視光領域の間の領域です。この領域は、雨による減衰や酸素・水分子による吸収減衰が生じるため長距離通信には不向きですが、波長が短いので時間あたりの送れる情報量が多くなります。
そのため、近年では5Gなどの高速通信に使用され、非常に注目されている波長帯です。

図1理化学研究所 「光波長変換によりテラヘルツ波を高感度に検出
-室温で動作するテラヘルツ波領域の小型非破壊検査装置の実現へ-」
参照

ミリ波とは

マイクロ波とサブミリ波の間に位置する、周波数 30 GHz~300 GHz領域の電磁波です。
波長は約 1 mm~10 mmと非常に短く、これが「ミリ波」という名前の由来です。直進性は高いですが伝搬距離が短く、大気中の分子や降水(雨・雪)で減衰しやすいという性質を持ちます。

ミリ波の大きな特徴は、非常に高い周波数帯を利用できるため、大容量のデータ通信が可能である点です。そのため、5G通信や自動運転車のレーダーシステム、空港の全身スキャナーなど、最先端の技術分野での活用が進んでいます。

また、同じ高周波領域の「テラヘルツ波」ともよく比較されますが、テラヘルツ波はミリ波よりさらに高い周波数帯を指し、応用される分野も若干異なります。

テラヘルツ波とは

周波数がテラ(10の12乗)領域の電磁波を指しますが、広くは 0.1~10 THz程度の領域とされています。
電波と光の中間に位置し双方の特徴を有しますが、その発生や検出が技術的に難しく、長い間使われてきませんでした。

しかし現在は、電磁波を発生させる半導体技術の進展などもあり、「テラヘルツギャップ」と呼ばれる技術的障壁(発振器や検出器の開発難度)を乗り越える研究が進行中で、将来的には通信、センシング、バイオ分野など幅広い産業への活用が期待されています。

※「テラヘルツギャップ」・・・電子デバイスで扱えるマイクロ波」と「光学的手法で扱える赤外線」の中間にあたるテラヘルツ波は、これまで適切な発振・検出手段が存在せず、技術的に“扱いにくい周波数帯”とされてきました。
この未開拓領域は「テラヘルツギャップ(Terahertz Gap)」と呼ばれており、現在は半導体技術やフォトニクスの進化によって、その克服が進められています。

テラヘルツ波は物質の分子構造に反応しやすく、非破壊検査や医療イメージング、分光分析などに応用されており、特に「透過性」と「分子識別能力」を活かした分野で注目されています。例えば、紙・プラスチック・布などを通過する一方で、金属や水分には吸収・反射される特性を利用して、空港のセキュリティチェックやがんの早期検出などにも応用が進められています。

▼ 『Frush』光周波数コムで5G/ポスト5G信号生成!!│Vol.21

ミリ波/テラヘルツ波発生のしくみ についてより詳しく動画で解説しています

マイクロ波とは

記事のタイトルから少しずれてしまいますがマイクロ波も軽く触れます。マイクロ波は波長 1 m~1 mm、周波数 300 MHz~300 GHzの領域を指しますが、波長 1 m~10 cmは極超短波領域にも含まれます。あらゆる無線技術に応用され、身近な家電製品などにも多く用いられています。

携帯電話やWi-Fi、衛星通信、レーダーシステムなど、現代の情報インフラを支える通信技術に広く使われているほか、電子レンジで食品を加熱する仕組みにもこのマイクロ波が活用されています。マイクロ波は水分子を振動させることで熱を生むため、加熱が効率的に行えるという特性があります。

また、ミリ波と比較すると波長が長いため、物体の回り込みやすさ(回折性)にも優れており、建物の裏や障害物の影でも通信が届きやすいという利点があります。

ミリ波テラヘルツ波の用途

現在、非常に注目を集めているミリ波テラヘルツ波ですが、実際にはどの様に使われているのか、またはどのような応用が想定されているのか解説します。

5G通信における役割

電磁波を語る上で通信分野は避けられません。特に、ミリ波テラヘルツ波の通信応用は今現在最も盛んであり、世界的に注目されています。ミリ波を用いたデバイスとして挙げられるのは、やはり一番にスマートフォンです。
近年のスマートフォンは5G通信を可能にしていますが、この5G通信はミリ波領域を使用しています。
(厳密には 28 GHz帯を使用するため、ミリ波から少しずれていますが、ほぼ 30 GHzのためミリ波と呼ばれています。)

そのような5G通信ですが、大容量・高速・低遅延技術の応用は多岐にわたります。例えば、車と車で通信を行うことで衝突を回避する自動運転技術や、地方などから高度な診断や施術を受ける遠隔医療が想定されています。

また、*1 VR *2 AR*3 MR などの技術は新しいエンターテイメントや医療などを提供します。
近年では、5Gにより *4 メタバース 分野が再注目され、*5 バーチャルオフィス*6 バーチャルショップ などが用いられるようになりました。
メタバースは今後発展する業界として非常に注目されています。

6G通信での可能性

6G通信は6Gに続く次世代の通信システムで、現在研究が進められています。研究段階のため正確な定義は無く、国際的な基準策定もこれからになります。
しかし、総務省による「Beyond 5G推進戦略 -6Gへのロードマップ-」によると、5Gと比較し10倍の通信速度・同時接続数、1/10 の遅延、1/100 の電力消費といった数値目標が掲げられており、「*7 Society 5.0」 としてサイバー空間とフィジカル空間を一体化して課題解決を図ろうとしています。6G通信によってできるようになると考えられるものは、無線信号を用いた給電による充電不要な生活、3Dホログラムによる店舗の無人化、AIによる診断・治療、*8 超カバレッジ拡張 による車両管理・自動運転などが想定されています。

各分野の細かな将来の展望は、日本の6G推進機関であるBeyond 5G推進コンソーシアムによる「Beyond 5G ホワイトペーパー ~2030年代へのメッセージ~」に記載されていますので気になった方は御覧ください。6Gの周波数としては 90 GHz~300 GHzが想定されており、2030年以降の商業化が目標にされています。

計測技術の進化

ミリ波は今まで幅広く用いられてきたマイクロ波領域より波長が短いため、対象物を高い精度で検知することが可能です。
ミリ波の吸収や散乱、回折を利用したイメージングはミリ波イメージングと呼ばれ、「ある程度物体を透過する・分解能が高い・被爆の恐れがない」といったメリットがあるので、非接触での測定や材料特性の分析に利用されています。身近なものとしては、手荷物検査などがあります。(図2

また、更に周波数の高いテラヘルツ波を利用したテラヘルツ波イメージングであるテラヘルツ時間領域分光分析技術(THz-TDS)は、分子間の弱い結合を観測できる可能性があるため、タンパク質分析や創薬への応用が想定されています。

図2 ミリ波イメージング装置によるイメージ例
[参照]Jstage 「非可視光領域のセンシング・画像処理技術 ミリ波イメージング」参照

ミリ波の計測可能な距離はマイクロ波より短いですが、赤外光線よりは長く、その点で優位性があります。自動車衝突防止用センサやドローンの状況把握に用いられる他、近年話題になったブラックホールの撮影にミリ波望遠鏡が使われているなど、多くの新技術が開発されています。

医療分野での応用

ミリ波テラヘルツ波の医療応用は5G通信、6G通信でも触れたように遠隔地からタイムラグのない診断や施術を可能にしたり、AIによるビッグデータ解析より自動診断を行ったりといったものが想定されています。

また、もっと直接的な応用になると、非接触で複数人同時に心拍数や呼吸数の計測を行い、就寝時の状態やストレス状態をモニタリングする想定があります。こういった技術は日本の少子高齢化社会において、限られたリソースで効果的に見守る事ができるため非常に期待されています。

ミリ波・テラヘルツ波の発生・検出技術の進展

5G/ポスト5G通信や次世代センシング技術の発展に伴い、ミリ波・テラヘルツ(THz)波の発生・検出技術が大きく進展しています。特に、光周波数コムを利用した高精度なTHz波発生は、周波数安定性や広帯域特性に優れ、次世代通信や精密計測において注目を集めています。

光周波数コムによるテラヘルツ波の精密測定

光周波数コム技術はテラヘルツ波の精密な周波数測定を可能にし、より高精度な計測を実現します。

この技術では、等間隔の周波数成分を持つ「コム(櫛)」状の光信号を利用して、テラヘルツ波帯の信号を正確に校正・解析することができます。特に、レーザー光源を基に生成される光周波数コムは、従来のマイクロ波発生器では困難だった周波数の絶対値測定や安定化において極めて優れた性能を発揮します。

これにより、非破壊検査や分光分析、バイオセンシングなどの分野において、物質のわずかな違いを検出することが可能になり、応用範囲が急速に広がっています。さらに、光周波数コムをテラヘルツ波源と組み合わせることで、超高分解能の時間領域分光や周波数領域分光が実現されつつあり、次世代のセンシング・計測技術として注目を集めています。

従来、テラヘルツ波は直接的に発生させることが難しく、「テラヘルツギャップ」として技術的な障壁がありました。これに対して、光周波数コム光源は、非常に高い周波数安定性と広帯域性を持ち、テラヘルツ波の高精度な発生・検出技術に活用されています。

弊社が提供する光周波数コム発生器「Frush」は、ピコ秒パルスによる繰り返し構造を持ち、ミリ波~テラヘルツ波の測定用途に適したフラットなスペクトルを実現します。フォトミキシング方式や光整合型THz波源と組み合わせることで、次世代の非破壊センシングや超高速分光の中核技術として期待されています。

具体事例については以下の動画で詳しく解説しています。

▼ 『Frush』光周波数コムで5G / ポスト5G ミリ波 / THz波検出!!│Vol.22

通信ネットワークを利用したリモートセンシング

通信インフラを活用したリモートセンシング技術は、既存のネットワーク網を利用してリアルタイムの環境モニタリングを可能にする手法です。特にミリ波・テラヘルツ波帯を用いたセンサは、高い分解能と応答性を兼ね備えており、地震動や気象変化、都市部での空間モニタリングといった分野での応用が進んでいます。将来的には、5G/6Gと連携した分散センシングネットワークとしての活用も期待されています。

アンテナ解析と窓ガラスの影響解析

ミリ波・テラヘルツ波を用いた通信では、ガラスやプラスチックといった身近な障害物による波の透過・反射の影響が重要な検討課題となります。アンテナの設計においては、こうした材料との相互作用を正確に解析することで、通信品質の安定化や高効率な波長選択設計が可能となります。また、窓ガラスのような障壁を通した通信の実現には、精密な透過損失や群遅延の評価が欠かせません。

フィルタの群遅延解析

ミリ波・テラヘルツ帯におけるフィルタ設計では、群遅延(Group Delay)の特性が通信性能に大きく影響します。群遅延のばらつきが少ないフィルタは、信号波形の歪みを抑え、高速・高精度なデータ伝送を実現します。特に高周波領域においては、群遅延の周波数依存性を詳細に評価・制御することが、通信機器やセンシング装置の高性能化に直結します。

関連製品紹介

フラットな光スペクトルで高安定性!
光周波数コム発生器 Frush

LN変調器1台で12 –18 GHzの自由スペクトル領域(FSR)を持つフラットな光周波数コムを発生する装置です。ピコ秒光パルスの発生が可能で、5G/ポスト5G向けのミリ波・THz波計測をはじめ、光通信や分光センシングなど幅広い用途に対応します。
概要カタログダウンロード:光周波数コム Frush

まとめ

  • ● ミリ波テラヘルツ波はマイクロ波領域と可視領域の間に位置する波長領域です。
    ミリ波は 1~10 mm、テラヘルツ波は 3 μm~30 mmに位置します。
  • ● マイクロ波伝送に対し、減衰が生じる、回り込みが起きにくいため長距離通信は不向きですが、
    大容量のデータを送ることが可能です。
  • ● 5G通信などに用いられ、自動運転や遠隔治療などの応用も想定されています。

    用語集

    用語意味
    *1 VR仮想現実(Virtual Reality)。ディスプレイやゴーグルを通じて現実とは異なる空間を体験できる。
    *2 AR拡張現実(Augmented Reality)。現実空間に仮想現実を加えることで、現実を拡張させる。
    *3 MR複合現実(Mixed Reality)。現実空間を反映した仮想現実。
    *4 メタバース仮想空間。インターネット上の世界で自分自身の分身(アバター)を操作しコミュニケーションを行うことが可能。
    *5 バーチャルオフィス仮想空間上で作り出したオフィス。そこに集まり仕事を行うことで自宅や外出先などの場所にとらわれない仕事が可能。
    *6 バーチャルショップ仮想空間上で作り出した店。
    *7 Society5.0情報社会(Society4.0)に継ぐ新たな社会。仮想空間と現実社会が高度に融合した社会。高度な人工知能がビッグデータ解析を行い現実空間に反映する。
    *8 超カバレッジ拡張今まで通信が不可能だった海や空、宇宙空間まで通信可能エリアを広げること。

    « 筆者紹介 »

    福田 渓人 博士前期課程 M1 ※2023年3月現在

    埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報専攻 電気電子物理工学プログラム 塩田研究室在籍。
    主な研究テーマは「二次元シングルショット光計測を用いた表面形状検査システムの研究」
    セブンシックス株式会社技術顧問である塩田 達俊 准教授のもと、研究に取り組みながら企業へのインターン活動なども積極的に行っている。