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光学フィルタの種類やその原理について解説

#光学部品

ひとことに光学フィルタといっても色を変えたり明るさを変えたりと多くの種類が存在します。
そんな光学フィルタについて、どのフィルタがどういった目的で使われるのか解説します。

1. 光学フィルタとは

光学フィルタは、入射された光の一部を選択して透過する *1光学素子 の総称です。それ以外の光は吸収や反射によってカットされます。選択する光情報は「波長・偏光・強度」の3種類に大別されますが、波長フィルタは入射光内の任意波長だけを取り出し、偏光フィルタは特定方向に振動している電磁波(偏光)のみを取り出します。

強度フィルタは光のパワーの調整に用いられ、主に減光に用いられます。それぞれ、カラーフィルタ、偏光フィルタ、NDフィルタなどが例に挙げられますが、ビームスプリッタ等も光学フィルタと呼ぶことが可能で、光学フィルタとしての適用範囲は多岐にわたります。本記事ではそれらの光学フィルタに関して、詳しく解説していきます。

光学フィルタの分類と特徴

光学フィルタは大きく吸収型と干渉型の2種類に分けられます。

【吸収型】——入射光の一部の光を吸収して遮断して特定の光のみを抽出します。不必要な光がノイズとして現れる状況を防ぐ事に長けており、入射角をさほど気にしなくてもフィルタリングすることが可能です。また、比較的安価なのもメリットの一つです。一方で、選択する光領域の境界が急峻ではなく、選択性がやや劣るという点がデメリットの一つです。

【干渉型】——一部の光のみを透過して残りの光を反射します。このフィルタは光を2つの光路に分離できることが最大のメリットとなっており、それぞれの光を別途使用することができます。吸収型と異なり入射角に対する依存性が強く、設計された入射角で使用しないとスペック通りの機能を果たすことができません。コーティング膜の保持など注意すべき点は多いですが、分光特性の自由度が高くなります。一方で、選択する光領域の境界が急峻で選択性に非常に優れています。

光学フィルタの原理・構造

吸収型・干渉型の2種類の光学フィルタについて、それぞれ原理や構造を解説していきます。

【吸収型】——-使用するガラス基板によって光を吸収することによって一部の光を遮断して目的の光のみを得ます。

構造は単純で、遮断したい要素に応じた物質を混入しガラス基板そのものに吸収特性を与えます。ガラス基板自体に吸収特性を付与するため特性選択の自由度は低いですが、加工が容易です。

【干渉型】——-ガラス基板にコーティングを施し、入射光の一部の光のみを反射して返します。

コーティングは誘電体薄膜を形成することで行いますが、材料は低屈折率材料と高屈折率材料の2つです。この2つを交互に積層する事で入射光が境界面において反射と透過を繰り返し、干渉効果により一部の波長の光が透過して他の波長は反射されます。この干渉効果を利用する原理から入射角依存性が高くなります。

2. 光学フィルタの種類・用途

先述の通り光学フィルタは主に「波長・偏光・光強度」を制御します。それぞれどのようなパラメータがあり、どう影響するのか理解していないと必要なフィルタを探すことができません。そこでこの節では主な光学フィルタの種類と用途について説明します。

フィルタ名称目的用途例
バンドパスフィルタ特定の波長帯のみ透過する分析機器、医療、天文
光通信、レーザー、照明
エッジフィルタ特定の波長より高い/低い波長帯を透過するラマン分光、レーザー励起
蛍光測定、顕微鏡、医療
ノッチフィルタ特定の波長帯を遮断するレーザー励起、蛍光測定
バイオメディカル
ダイクロイックフィルタ特定の波長帯のみ透過し、
それ以外の特定の波長帯を反射する
CCDイメージング、プロジェクタ
赤外線センサ、ToFセンサ
カラーフィルタ特定の波長を吸収する映像機器、医療機器
ディスプレイ
NDフィルタ特定の波長帯全域で光量を落とす映像機器

バンドパスフィルタ

バンドパスフィルタは特定の波長帯のみを透過する光学フィルタを指します。当フィルタを適用した後のスペクトル模式図の内、重要になってくる要素は中心波長とバンド幅で、それぞれ以下のように定義されます。

【中心波長】——-フィルタが透過する波長帯域の中心の数値

【バンド幅】——-透過する波長帯域のFWHM(最大透過率の50%の値となる長波長側と短波長側間の波長幅)

バンドパスフィルタを適用した際の中心波長とバンド幅の図

バンドパスフィルタには1つのフィルタで可変的に透過帯域を設定できるものも存在します。そちらは波長可変フィルタで説明します。

エッジフィルタ(ロングパス,ショートパス)

特定の波長を境に前後の波長域を透過/反射するフィルタです。透過する帯域に応じて更にロングパスフィルタ・ショートパスフィルタに分けられます。

ロングパスフィルタ

所定の波長より長い波長域のみを透過するフィルタです。所定の波長はカットオン波長と呼ばれ、透過率が50%に到達する波長を指します。遮断帯域から透過帯域へ移行する際の変化の度合いが重要な仕様であり、用途に応じて選択する必要があります。

ロングパスフィルタを適用時の遮断帯域から透過帯域へ移行する際の変化

ショートパスフィルタ

所定の波長より短い波長域のみを透過するフィルタです。所定の波長はカットオフ波長と呼ばれ、透過率が50%に落ちる波長を指します。ロングパスフィルタと同様に、透過帯域から遮断帯域へ移行する際の変化の度合いも重要な要素の一つです。

ショートパスフィルタを適用時の遮断帯域から透過帯域へ移行する変化

ノッチフィルタ

特定の波長帯域を遮断し、それ以外の光は透過するフィルタです。バンドパスフィルタの逆の性質を持つフィルタと言えます。一般的にバンドストップフィルタ・帯域防止フィルタと呼ばれますが、その中でも狭い波長範囲を制限するものを指します。

ノッチフィルタを適用時の遮断帯域から透過帯域へ移行する変化

ダイクロイックフィルタ・ミラー

干渉型光フィルタで述べたように、基板材質に薄膜を積層し、光の干渉を利用して特定帯域を透過・反射するフィルタです。R・G・Bの分光や合成に適しており、遮断する帯域によってはIRカットフィルタやUVカットフィルタと呼ばれるものも存在します

カラーフィルタ

特定の波長(色)を吸収して残った波長(色)透過するフィルタです。ガラス基板にカラーレジスト(顔料などから成る光を吸収する材料)を付与したものは色ガラスフィルタと呼ばれ、映像機器やディスプレイ製品をはじめとした多くの日用品にも用いられています。バンドパス・ロングパスフィルタとして用いられることがあります。

NDフィルタ

Neutral Density(中立な濃度)の略で、特定の波長全域で一定して光量を落とすフィルタです。OD(光学濃度 ; Optical Density)で性能が評価され、ODが高いと透過率が低く、逆にODが低いと透過率は高くなります。

3. その他の光学フィルタ

光学フィルタには、フィルタ類を組み合わせたり、専用の機構を搭載したりすることで自由度を拡張して使えるようにしたものがあります。

概要代表例用途例参考商品
波形整形器(WaveShaper)光の波形を変える光学フィルタです。光スペクトルの強度、位相などをそれぞれ変化させることができます。・WaveShaper通信、パルス成形通信帯域 スペクトル・分散制御プロセッサ WaveShaper Aシリーズ
波長可変フィルタ波長可変フィルタは、透過する波長帯域を変更することができるフィルタです。フィルタ方式によって変化させることが可能な中心波長、帯域幅が変わります。・リニアバリアブルフィルタ(LVF)
*2ファブリペローチューナブルフィルタ (Fabry-Perot tunable filter)
*3回折格子 (Grating)
・回折格子と多面体ミラー(Grating & Polygon mirror)
・音響光学可変フィルタ(AOTF : Acousto-Optic Tunable Filter)
*4ファイバ・ブラッグ・グレーティング (FBG : Fiber Bragg Grating)
*5LCoS (Liquid crystal on silicon)
波長可変レーザー、スペクトル分析、通信EXFO社 波長帯域幅可変 光フィルタ

NKT社 レーザー光源用 高機能波長選択フィルタ

通信帯域 スペクトル・分散制御プロセッサ WaveShaper Aシリーズ
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業界オンリーワンの任意波形整形機能。
さらに、弊社ではWaveShaperのポテンシャルを最大限に引き出す当社オリジナル・ソフトウェアのサポートをご提供しております。

4. まとめ

  • ● 「光学フィルタ」は、入射された光の一部だけを選択して透過・反射する光学素子の総称です。
  • ● 選択される情報は「波長・偏光・強度」の3種類です。
  • ● 光学フィルタは大きく吸収型と干渉型の2種類に分けられます。吸収型は不必要な光の影響が少なく入射角依存性が低いです。干渉型は光干渉を利用して光を選択しており、残りの光は反射します。2つの光路に分岐でき、入射角依存性が高いのが特徴です。

5. 用語集

用語集解説
*1 光学素子光学機器や光学系を構成する個々の要素。ミラー・レンズ・プリズム・フィルタなどがある。
*2 ファブリペローチューナブルフィルタエタロン長を調整することで必要な波長を取り出し、 その他の波長はエアリー効果によって減衰されるフィルタ。レンズなしで構成されており、低損失、高いアイソレーションが特徴。
*3 回折格子 (Grating)種々の波長が混ざった光(白色光)を波長ごとに分散してくれる光学素子の総称。
*4 ファイバ・ブラッグ・グレーティング光ファイバーのコア内に回折格子を刻んだ構造を指す。特定波長のみ反射するという特性がある。
*5 LCoSはプロジェクタやリアプロジェクションテレビに使われる、マイクロプロジェクションないしマイクロディスプレイ技術のこと。

« 筆者紹介 »

福田 渓人 博士前期課程 M1

埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報専攻 電気電子物理工学プログラム 塩田研究室在籍。
主な研究テーマは「二次元シングルショット光計測を用いた表面形状検査システムの研究」
セブンシックス株式会社技術顧問である塩田 達俊 准教授のもと、研究に取り組みながら企業へのインターン活動なども積極的に行っている。