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OCTとは? – OCTの特徴や基本構成、その活用先について

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OCTとは 

OCT -Optical Coherence Tomography- (光断層計測)とは、マイケルソン型干渉計やマッハツェンダー型干渉計のような光の *1 干渉 を利用して非破壊・非侵襲で、ものの表面や内部の微細構造を計測して光学装置をもとに開発された画像化する技術 *2 低コヒーレンス干渉計 のことです。本項ではOCTの原理や装置の構成について解説します。 

OCTの原理 

OCTの光学系は、主に、光源、ビームスプリッタ、参照ミラー、測定対象物、光検出器から構成されます。下図はマイケルソン型のOCTの基本的な装置構成です。

マイケルソン型のOCTの基本的な装置構成

光源から射出された光はビームスプリッタによって、参照側とサンプル側に分岐されます。分岐された光は参照ミラーとサンプルでそれぞれ反射して、その後ビームスプリッタによって合波され光検出器に入射します。参照ミラー側とサンプル側の光路長がそれぞれ等しいときに光干渉が発生します。 

参照ミラーの位置を *3 光軸 方向に移動させながら干渉光の強度を検出器で測定することで、サンプルのどの深さで光が反射して光干渉が起きているのかを調べることができます。 

OCTの光源は *4 低コヒーレンス光 が用いられます。コヒーレンスとは光の可干渉性のことで、干渉計に低コヒーレンス光を用いると短い光路長差で干渉が消滅します。OCTはこの性質を利用して、わずかな距離差による干渉強度の変化を計測して、ものの表面や内部の微細構造を画像化しています。 

OCTの種類 

 OCTは光源の種類や干渉光の測定方法によりTD-OCT -Time Domain OCT- (時間領域OCT)とFD-OCT -Fourier Domain OCT- (周波数領域OCT)に大別されます。TD-OCTは低コヒーレンス光源と光検出器が用いられます。FD-OCTは、さらに、低コヒーレンス光源と分光器が用いられるSD-OCT -Spectral Domain OCT-(スペクトル領域OCT) と、波長掃引光源と光検出器が用いられるSS-OCT -Swept Source OCT-(周波数走査OCT)の2つの方法に分類されます。 

TD-OCTは、時間をかけて参照ミラーを動かし干渉が引き起こされた位置を測定する方法です。FD-OCTは参照ミラーを動かさずに、干渉光の波長ごとの強度分布をフーリエ変換することで測定対象の干渉位置情報を取得します。SD-OCTは干渉光を分光器で分光し得られたスペクトルをフーリエ変換することで、SS-OCTは光源の波長を時間的に掃引して得たスペクトル情報をフーリエ変換することで、干渉位置情報を取得することができます。 

OCTの特徴や用途 

本項では、OCTとその他のイメージング技術を比較しながら、OCTの特徴について解説します。 

OCTの性能 

 各イメージング技術の性能を、横軸を測定深度(光の侵入深さ)、縦軸を分解能として図に示します。 

測定深度と分解能を両立するのは困難です。測定で使用する光源の波長が短いほど分解能は高くなりますが、光の散乱が大きくなるため測定深度が浅くなってしまうためです。 

OCTは一般的に近赤外光が使用され、測定深度は数mm程度、分解能は数μm~数十μmです。測定深度は超音波や光音響イメージングより浅いですが、より高い分解能で計測を行うことができます。また、共焦点顕微鏡や多光子励起顕微鏡より分解能は低いですが、より深い測定深度まで計測できます。 

身近な活用例 

OCTは、その非破壊・非侵襲性と、超音波や光音響イメージングより高い分解能を活かして医療分野で多く利用されています。特に、眼科での網膜や黄斑部の診断(眼底検査)や、循環器科の血栓や石灰化の評価では重要な役割を果たしています。 

OCTに使用される部品や機器について 

OCTを設計する際は、測定対象物の光吸収と光散乱特性を考慮した波長帯域を選択する必要があります。例えば、前項の眼科の検査システムでは、水と眼の組織による光の吸収が少ない1μm付近の光が使用され、その波長に適した部品や機器でシステムが構成されます。 

光源 

OCTの光源として低コヒーレンス光が用いられます。その理由は、測定対象物に適したスペクトルが連続的に広がっている光源を使用することで、分解能と測定深度の両立を図る必要があるからです。

低コヒーレンス光源として、SC光源SLD光源などがあります。SC光源は白色の広帯域光源ですが、出力がやや不安定といった特徴があります。また、SLD光源は、出力は安定していますが、SC光源と比較すると帯域が狭く光強度が弱いといった特徴があります。 
OCTに使用する光源は、必要な波長帯域や光強度を考慮して選択する必要があります。 

光検出器 

光源と同様に測定対象物に適した検出器が用いられます。OCTは、測定対象物からの反射光が微弱なために干渉光の計測が難しいことがあります。そのため、波長帯域だけでなく、受光感度にも留意する必要があります。 

応用事例  

医療分野 

非侵襲・非接触でイメージングできるという特徴を活かして、染料等を用いずに生体器官の毛細血管を高解像度で可視化する手法や、皮膚や歯肉等の生体組織の微細構造の計測手法として用いられています。 

産業分野 

非破壊・非侵襲で製品の評価を行えるという特徴を活かして、薄膜の測定や微細なキズや粒子の検出、形状の評価に用いられています。 

芸術分野

非破壊で3次元情報を取得しイメージングできるという特徴を活かして、芸術作品の保存・修復を行う際の断面計測に用いられています。例えば、絵画をOCTでスキャンすると、画家の筆跡や、表面のひび割れ、過去の修復履歴等を知ることができます。 

今後期待される用途やシーン 

医療応用 

OCTを使って虫歯の診断を行う装置が開発されました。被爆のリスクがない、安全な虫歯検査として期待されています。また、OCTの分解能の高さを活かして、今まで発見が困難だった初期の小さな虫歯や、歯自体の亀裂やすり減りの観察などへの応用が期待されています。 
【参考記事】岡山大ら,OCTを虫歯診断に応用 | OPTRONICS ONLINE オプトロニクスオンライン (optronics-media.com)

産業応用 

半導体や光学フィルム、セラミックス等様々な産業製品の、表面や内部形状の評価やキズや不純物のリアルタイムの *5 インライン検査用途が期待されています。高速で広範囲の干渉データを取得できるシステムで、高分解能のインライン全数検査が期待されています。 
【参考記事】光干渉断層撮影法による後歯の近位齲蝕の3Dイメージング |サイエンティフィックレポート (nature.com) 

まとめ 

  • ● OCTとは、光を利用して非破壊・非侵襲で、ものの表面や内部の微細構造を計測する技術のことです。 
  • ● OCTは測定深度が浅い分、高分解能で計測を行うことができます。 
  • ● OCTを設計する際は、測定対象物に適した波長帯域の機器を選択する必要があります。 
  • ● OCTは医療・産業・芸術等幅広い分野で利用されています。 

用語集 

*1 干渉 複数の波が重なり、互いに弱めあったり強め合ったりする現象。 
*2 低コヒーレンスを用いた干渉計 コヒーレンスは波の干渉のしやすさを表す言葉です。低コヒーレンス干渉計は、干渉性が低い光源を使用して高分解能で測定を行うことができる技術です
*3 光軸 光学系の各素子の回転対象軸と一致する方向のこと。レンズの中心を通り、レンズ面に垂直な方向のこと。
*4 低コヒーレンス光 光源から出る光波の位相が一定でなく、光の可干渉性が低い光のこと。OCTで用いられるSC光源は、位相は揃っているが波長範囲が広帯域であるため、時間的コヒーレンスが低い(可干渉時間が短い)レーザーです。 
*5 インライン検査製品の検査工程を生産ラインに組み込み、ラインを稼働させながらリアルタイムで検査を行うこと。 

« 筆者紹介 »

村澤 聡笑 博士前期課程 M1 *2024年2月現在

埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報専攻 電気電子物理工学プログラム 塩田研究室在籍。
主な研究テーマは「生体応用へ向けた非接触光形状計測システムの研究」
セブンシックス株式会社技術顧問である塩田 達俊 准教授のもと、研究に取り組みながら企業へのインターン活動なども積極的に行っている。