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光変調器の基本原理と選び方|高速通信・計測向けの最適な選定基準

#光学部品

※2025年1月27日 更新
※2025年4月17日 更新

応用の代表例として、光高速通信があげられる光変調器。基本的な原理について説明します。

光変調器とは

光変調器とは、高速な時間信号の生成するための変調器のことを指します。一般に光通信システムに組み込まれており、光の強度や *1 位相、周波数などを時間的に変化させることで、送りたい信号を光に乗せるデバイスです。

optical modulator

光変調器の原理と構造

光変調器は、高速な *2 変調 を行うために、駆動電力と静電容量を低減する導波路型の構造をした変調器が一般的です。
この構造のため、ファイバとの結合が容易となり、半導体レーザーとの集積化も可能となっています。また通信用においてGHz以上の高速変調が可能なものが求められています。
10GHz程度までは半導体レーザーを直接変調することで対応が可能ですが、入力する光のキャリアの強度によって活性層の屈折率が変化するため光の波長と位相が変化して、変調した光に *3 チャープ が生じてしまいます。

そのため、超高速な光信号、約10GHz以上の広帯域な信号の伝送には直接変調はあまり向かず、外部変調が用いられます。

直接変調と外部変調

光変調器の変調方式は搬送波であるレーザーの発生と変調を同時に行う直接変調と光源とは別の変調器で行う外部変調があります。
直接変調は電流制御により、半導体レーザーの出力強度を直接変調する方式が代表的です。しかし、半導体の応答速度の問題から超高速的な通信には対応できません。そのため安定性が求められる光通信伝送には外部変調方式が一般的に用いられています。
外部変調方式は、光源の半導体レーザーは一定の光を出力し続けて、外部変調器で、外部電圧によって屈折率や吸収係数を変化させることで、変調を行っています。

機械式変調や、電気光学効果、音響光学効果がよく用いられています。

図直接変調方式と外部変調方式の概略図

図直接変調方式と外部変調方式の概略図

光変調器の種類と特徴、用途

高速光変調器

時間領域で光を変調する高速変調器、強度変調と位相変調があり、変調をかける方法でよく使われるものが外部電界を結晶に印可したときの電気光学効果を利用した変調であり、LN結晶を用いたバルク型の光変調器が代表例として挙げられます。高速変調を行うためには導波路型の光変調器が用いられます。

応用例:光通信分野

空間光変調器

空間領域で光を変調する空間光変調器、空間変調とは均一な強度または位相分布をもつ光に2次元的な強度、位相分布を乗せることです。空間光変調器は、入力信号が電気の場合と光の場合があります。入力信号が電気の電気アドレス型空間変調器の代表的な応用例は液晶ディスプレイが挙げられ、高輝度、高解像度な画像を出力できます。また入力信号が光の光アドレス型空間変調器は入力信号が光であるため高速的な処理が可能です。

応用例:液晶ディスプレイ、光情報処理分野

光変調器の選定基準と設計のポイント

研究や開発プロジェクトで適切な光変調器を選ぶためには、以下の基準を考慮することが重要です。

選定基準

応答速度高速通信向けには40Gbps以上の帯域を持つ変調器が必要です。一方、精密測定では安定性が重視され、多少低速でもノイズ耐性の高いものが適しています。
動作波長使用する波長範囲(例: 通信用の1550nm、計測用途の780nm)に対応した製品を選ぶ必要があります。
消費電力持続可能な設計や長時間の動作を考慮し、低消費電力の変調器を選択します。
サイズ光通信システムのモジュール化や携帯型機器向けには、小型かつ高性能な変調器が求められます。

高速通信向けと精密計測向けの選択方法

高速通信向け高帯域幅、低損失、長距離伝送対応のLN(リチウムニオベート)変調器やシリコンフォトニクス変調器が適しています。
精密計測向け位相安定性が高く、ノイズが少ない変調器(例: 高品質な空間光変調器)が適しています。

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光変調器の実験セットアップ例

実験で光変調器を使用する際の、組み合わせ例を簡単にご紹介します。

光源や検出器との組み合わせ




超短パルスレーザー(ナノ秒/ピコ秒/フェムト秒)光源
精密測定用では【超短パルスレーザー】 が最適です。


狭線幅CWレーザー光源
高速光通信用では【狭線幅レーザー光源】 が最適です。



フォトダイオード(PD)
高速かつ高精度な光信号の送受信・測定が求められるさまざまな用途で活用されます。
フォトダイオードの帯域幅と感度が、変調器で生成された信号に対応していることを確認することが重要です。

エラーを最小限に抑えるためには…

- 温度管理
変調器や光源は温度変化に敏感なため、適切な温度制御が必要です(例: *4 ペルチェ素子 の使用)。

- 電圧制御
適切な駆動電圧を設定し、過剰な電圧で変調器を損傷しないよう注意します。

- 光路の調整
*5 レンズ や プリズム を用いて光路を整え、変調器内の損失を最小化します。

まとめ

  • ● 光変調器は強度、位相を変調するもの、時間領域または空間領域で変調するものなど用途や目的により
    様々な種類の光変調器があります。
  • ● 現在ではLN結晶を用いた光変調器で40Gbit/sの高速変調が可能となっています。

    用語集

    用語意味
    *1 位相波の周期的な変化を表す位置関係やタイミング。波が進む過程での「進み具合」を示し、干渉や振動において重要な概念。
    *2 変調信号(電気や光)の特性(振幅、周波数、位相など)を変えて情報を伝える技術。通信や光学分野で使用される。
    *3 チャープ周波数が時間的に変化する信号。例えば、レーザーパルスで周波数を変化させることで、広帯域の特性を持たせる技術。
    *4 ペルチェ素子電流を流すと熱を吸収または放出する半導体材料のデバイス。温度制御するための冷却や加熱に使用される。
    *5 レンズ や プリズムレンズ: 光を屈折させて集めたり広げたりするための透明な素材。凸レンズや凹レンズがある。
    プリズム: 光を屈折・分散させる透明な多面体。スペクトル分析や光路制御に用いられる。

    « 筆者紹介 »

    内山 遼 博士前期課程 M1 ※2023年3月現在

    埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報専攻 電気電子物理工学プログラム 塩田研究室在籍。
    主な研究テーマは「超高速任意波形計測に向けた光周波数コムを用いたシンセサイザ/アナライザの研究」。
    セブンシックス株式会社技術顧問である塩田 達俊 准教授のもと、研究に取り組みながら企業へのインターン活動なども積極的に行っている。