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レーザー表面加工技術 LIPSSについて (Vol.1) │Vol.113

光技術解説

【sevensixTV】に第113弾の動画を更新しました。

00:11 表面加工技術のLIPSS概要
01:32 LIPSSとは?
02:12 LIPSSの実例
04:45 LIPSSの論文数・トレンド
05:34 LIPSSって何に使えるの?その1
06:12 LIPSSって何に使えるの?その2
06:52 まとめ

今回は、レーザー加工技術の1つである、LIPSS(リップス)について紹介しています。超短パルスレーザー加工に興味のある方はぜひご覧ください。

フェムト秒レーザー『ORIGAMI XP(-S)』 / NKT Photonics社

++(動画内の抜粋)++++++++++++++++++++++

00:11 表面加工技術のLIPSS概要

表面加工技術と言われる技術には、多種多様な手法があります。更にその手法一つ一つに目的が存在しています。
例をいくつか挙げると、例えば金属の場合、表面メッキや酸化、樹脂の塗布など、その効果は傷の防止や表面状態の保護、更に見た目の変更に至るまで、まさに多種多様と言えます。 

本日紹介するLIPSSという技術は、表面加工技術の1つに分類されます。
この技術はフォトマスクなど難しい光学系を使わずに、超短パルスレーザーを物質表面に照射するだけでナノメートルオーダーの周期構造を物質表面に形成することができます。金属・半導体・絶縁体、材料問わずこの現象は発生します。

通常、ナノメートルオーダーの構造はフォトレジストとエッチングを駆使して作製することが一般的ですが、LIPSSにおいてはアブレーションにより形成されるため、フォトレジストやエッチングは不要です。超短パルスレーザーを照射するだけで、簡略かつ高速なプロセスでナノメートルオーダーの周期構造を作製できます。 

01:32 LIPSSとは?

LIPSSは「Laser Induced Periodic Surface Structures」の頭文字を取った造語です。 
英語だけ言われても分からないので、日本語に訳すると「レーザー誘起表面周期構造」となります。 
物理現象を簡単に説明しますと、「ある物にレーザーを照射すると、表面に自己組織的にレーザーの波長の長さと近い幅の周期的な構造ができます」ということになります。 

02:12 LIPSSの実例

この図はチタン合金の表面にLIPSSを作製した電子顕微鏡画像になります。 シンプルに絵だけを見て、表面に見える溝こそがLIPSSと呼ばれています。 
一般的にこの現象は、フェムト・ピコ・(ナノ)秒レーザーを物質に照射することによって発生することができます。

■ LIPSSのもっと細かい定義

LIPSSは更に2種類に分類されます。 簡単に言うと、周期の幅が長いLIPSSはLSFL短いLIPSSはHSFLと呼ばれます。 
厳密に言うと、照射したレーザーの波長の長さの半分より大きい場合LSFL、小さい場合はHSFLとなります。 
具体的な例として、左の図の実験は波長800 nmのTi:Sapphireレーザー(チタンサファイアレーザー)を使っており、 上の図は周期が800 nmなのでLSFL、下の図は周期が100 nmなのでHSFLとなります。 
各略語は右下に書いてあります。 

なんでLSFLとHSFLに分かれるのだと疑問に思われるかと思いますが、今回は導入のためVol.2以降に改めて説明していきます。 レーザーの条件と物質に依存しているということだけ覚えておいてください。 

■ LIPSSとレーザー偏光方向の関係

LIPSSは図の通り、周期的な溝の構造ですが、実はこの溝の方向は照射レーザーの偏光方向に依存します。 
基本的にレーザーの偏光方向に対して、LIPSS(溝)は垂直方向に形成されます。
正し、一部例外があり、ある物質では平行方向に形成されるものがあります。  
赤枠に占めているのは照射レーザーの偏光方向です。 

LSFLの溝方向はレーザーの偏光方向に対して垂直方向に形成され、HSFLは平行方向に溝が形成されていることが分かります。 実は、このLIPSSという現象は完全には解明されておらず、様々な形成論が存在します。 
ただ、確実に言えるのは、LIPSSはレーザーと物質の相互作用であるということです。 

レーザーの条件・パラメータだけではLIPSSをコントロールすることはできず、物質側の状態も考える必要があります。 

04:45 LIPSSの論文数・トレンド

LIPSSという現象が、今どの程度着目されているのかを示しているのが下の図になります。 
2010年以降、LIPSSの論文数は増加し続けています。 
この要因については様々考えられますが、2010年以降Ti:Sappire以外のフェムト秒レーザーが世の中に安価に出回り始めたことが大きな要因の一つとも言えます。 

現在のLIPSS研究者のトレンドとして、 LIPSSの原理解明、LIPSS形成の大面積化/加工精密さの追求、その他応用分野として/構造色の形成、撥水性の追求、様々なマテリアルへのLIPSSの作成などが挙げられます。
まだまだ馴染みがない技術でありますが、徐々に技術の進歩が見られています。 

05:34 LIPSSって何に使えるの?その1

LIPSSはナノ周期構造であるため、物質表面で回折格子として振る舞うことができます。 この回折格子の効果によって、物質に構造色を持たせることができます。 

例えとして、黒色や白色光沢を持つ金属の一部分にレーザーを照射し、LIPSSを形成することによって、その部分にのみ違う色を持たせることができます。 

06:12 LIPSSって何に使えるの?その2

LIPSSのようなナノ周期構造上に水滴が滴下されると、接触面積が平面と比べて、著しく減少するため、高い撥水性が生まれます。 よって、撥水性の塗布材料を用いずとも、物質構造的に撥水性を持たせることが可能です。 
塗布材料が使えない材料や、長期間の撥水性能を求める場合、LIPSSはその選択肢の一つに入るかと考えられます。 

06:52 まとめ

今回は、LIPSSの概念・原理、応用例について紹介しました。 LIPSSはかなり奥が深く、ややこしい現象ですが、今後のVolで少しずつ紹介していくつもりです。 

私個人、学生時代深く、LIPSSを研究しました。 この技術が少しでも多く産業界に普及し、世の中に役立てたらいいなと思っています。 過去自分が執筆したレーザー微細加工とLIPSSに関する論文が以下になります。 

レーザー微細加工とLIPSSに関する論文↓
S. Toriyama et al., Appl. Phys. Express, 12, 015004 (2019).

興味ある方はぜひ読んでください。

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