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光スイッチとは? – 種類や使用シーン、選び方のキホン解説

#光学部品

光スイッチとは 

光スイッチとは、光通信の信号を電気信号に変換することなく光信号のまま特定の信号を分岐したり、経路を変えたりすることができるデバイスのことです。

光スイッチは広義では2種類あり、光信号を必要に応じてON/OFF動作させる時間スイッチと、入力と出力が複数あり光信号の行き先を切り替える空間スイッチに分けられます。本記事では主にこの空間スイッチについて解説します。 

空間スイッチ(以下、光スイッチ)は、伝送装置の現用機と予備機の切り替えに使用されており、従来はメカニカル式のものや *1プリズム、ミラーなどを移動させて光路を切り替える方式)が使われていました。しかし、近年の通信の大容量化に伴い、波長多重された光信号を扱う必要がありますが、移動機構を持つメカニカル方式では小型化が難しく大規模通信には向いていないとされています。つまり、波長多重された光信号の行き先を変更できる光スイッチが必要で、小型化、高速、集積化などが可能な製品が求められています。 

光スイッチの種類と原理 

光スイッチの種類には主に、メカニカル方式、MEMS方式、導波路方式に分類されます。 

メカニカル方式 

 アクチュエータにより、プリズムやミラーなどの光学素子を移動させることによって、切り替えを行う方式です。 

<製品例>
ピエゾアクチュエータ式マトリックス光スイッチ

・8×8 ~ 最大576×576のNon-blockingマトリックス光スイッチ。
・ユーザー側で自由自在にポート構成の組み換えが可能なsingle-sided NxCCに対応。

MEMS方式 

シリコンやガラス基板上にミクロンサイズでミラーやセンサーを加工し、ミラーの角度を制御することで光の経路を変える方式です。 

<製品例>
MEMS型 可視光用 光スイッチ

DiConのMEMS Visible 1xN光スイッチは、1本の入力ファイバーをN本の出力ファイバーに自動接続することができます。

導波路方式 

 導波路構造と熱、光、電気などの外部入力による屈折率の変化を組み合わせて動作させる方式です。 

 

 

メリットとデメリット 

各方式のメリットとデメリットについて以下にまとめます。 

メリットデメリット
メカニカル方式 ・低コスト 
*2 挿入損失が小さい 
・高消光比 
・小型化が難しい 
・低電力化が難しい 
・大規模化に向いていない 
MEMS方式 ・小型化 
・低電力 
・自由空間光回路 
・光路長の増大 
・高い加工技術や溶接技術が必要 
導波路方式 ・小型化 
・ファイバとの接続が容易 
・高速応答 
・挿入損失が大きい 
・消光比が低い 
・偏波依存性がある 
【参考】上智大学理工学部 下村研究室 光スイッチ・光変調器 (sophia.ac.jp)

光スイッチの使われ方 

光ネットワーク 

近年、データ通信量と電力消費量の増加に伴い、今までの電気を使ったネットワークシステムは限界に近づいています。このような状況で、電気スイッチに代替する新しい技術として開発されたのが、光通信ネットワークの中で用いる光スイッチです。通信の大容量化に伴い、より高速な信号処理が求められるようになります。そこで、光信号を光のまま処理できる光スイッチが重要になってきます。 
【参考】光スイッチで毎秒1.25億Gbitのデータ伝送を実現 (aist.go.jp) 

また、光スイッチを用いることで、通信の安定性を維持することができます。例えば、ネットワーク障害をパワーの低下により検出して速やかに自動で経路の切り替えを行ったり、遠隔の監視や制御が可能なシステムを構築したり、人によるファイバコネクタ等の経路の切り替えをなくすことでヒューマンエラーの低減が可能になったりします。

コンピュータ 

*3クラウドサービス*4ビッグデータ の解析で用いられるコンピューティング分野においても、光スイッチによる高性能化と省電力化が期待されています。 

光スイッチの選び方 

光スイッチは製品ごとに、ポート数、取り扱いパワー、取り扱い波長(周波数)が異なります。また、使用目的に合わせた応答速度や適応ファイバタイプの製品を選定する必要があります。以下に例を示します。 

データセンターや通信で使用 

ポート数や取り扱い周波数に留意して選ぶ必要があります。実際に通信で使用される周波数帯域に適合しているか、ポート数が不足していないかを確認する必要があります。 

<製品例>
Flexgrid 波長選択型 光スイッチ (WSS)

・周波数レンジ:4.8THz~10THz(C+L band)
・ポート構成:1×N、2x1xN、4x1xN構成対応

センシングやバイオ/医療などで使用 

取り扱いパワーや取り扱い波長に留意して選ぶ必要があります。計測対象に適した波長帯域の測定が可能であること、取り扱いパワーが計測パワーを上回らないこと、もしくは過剰ではないことを確認する必要があります。 

<製品例>
ハイパワー用 光スイッチ

・波長: 530 ~ 2000nm ポート数: 1×1 / 1×2
・最大10Wまで対応
可変パルスの生成、冗長回路の形成、低繰返しの光パルスの発生などに応用できます。

まとめ 

  • ●光スイッチとは、光通信を電気信号に変換することなく光信号のまま信号を分岐したり、経路を変えたりすることができるデバイスのことです。 
  • ●光スイッチはメカニカル方式、MEMS方式、導波路方式に分類されます。 
  • ●通信の大容量化に伴い、光通信ネットワークの中で用いる光スイッチが注目されています。 
  • ●コンピューティング分野においても、光スイッチによる高性能化と省電力化が期待されています。 
  • ●光スイッチは使用目的に合わせたポート数、取り扱いパワー、取り扱い波長(周波数)、応答速度、適応ファイバタイプの製品を選定する必要があります。 

用語集 

*1 プリズム ガラスを加工した光学素子で、光の屈折や反射の性質を利用して、波長を分離するために用いたり、ミラーの代替として使用されます。 
*2 挿入損失 光スイッチ等の光デバイスと光ファイバを接続する際に、何らかの原因により入射光パワーより出射光パワーが減少する。この光パワーの差を挿入損失と呼びます。 
*3クラウドサービスインターネットを経由して利用できるサービスのことで、現在はアプリケーションやサーバー等幅広いサービスが展開されています。 
*4 ビッグデータ巨大なデータ群のこと。人間では把握しきれない膨大な情報を含んでおり、このビッグデータの分析を行うことができれば、今までより精度の高い予測が可能になります。 

 

« 筆者紹介 »

村澤 聡笑 博士前期課程 M1 *2024年3月現在

埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報専攻 電気電子物理工学プログラム 塩田研究室在籍。
主な研究テーマは「生体応用へ向けた非接触光形状計測システムの研究」
セブンシックス株式会社技術顧問である塩田 達俊 准教授のもと、研究に取り組みながら企業へのインターン活動なども積極的に行っている。