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光増幅器とは? – 光を高速に増幅する重要デバイスについて

#光学部品

光通信システムにおける光増幅器の必要性

*1 光増幅器 は、光信号を増幅するためのデバイスであり、光通信システムなどで広く利用されています。
本記事では、光増幅器の種類や原理について解説します。 

光通信システムで用いる光ファイバを光信号が伝送する際、ファイバ内で *2 レイリー散乱 などが発生することにより損失が生じ、光が減衰してしまいます。そのため、システムを構築する際にはその減衰を補うことができる増幅器を用いる必要があります。この時、信号の増幅を行う際に光増幅器を用いることにより、光を電気信号に変換することなく高速に増幅することができます。 

光増幅器は主にエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)、半導体光増幅器(SOA)、ラマン光増幅器という種類があります。次項ではそれら光増幅器の特徴や動作原理について説明します。 

光増幅器の種類 

前項でもご紹介した通り、光増幅器には特徴や原理の異なる様々な種類があります。本項では、主な光増幅器について解説します。 

エルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA) 

エルビウム添加光ファイバ増幅器 (EDFA: Erbium Doped Fiber Amplifier) は、*3 エルビウム(Er) イオンをドープした光ファイバを使用して光信号を増幅するデバイスです。光ファイバにドープするものとしてエルビウムイオンを用いる理由は、光通信に用いられる1550nm付近の波長の増幅媒質として優れているためです。 

EDFAの基本的な動作原理 

  1. *4 ポンピング光源 からポンピング光をエルビウムドープファイバに注入して、エルビウムイオンを励起させ高エネルギー状態に移行させます。 
  1. 入力側から増幅させたい光信号を入力します。 
  1. 光信号がエルビウムドープファイバを通過する際に、信号の光子によってエルビウムイオンが *5 励起状態 から *6 基底状態 に戻り誘導放出が起こります。この時入力した信号と同じ波長の光子が増え、光信号が増幅されます。 

      エルビウムドープファイバはポンピング光源によって常に励起され続けているため、光信号の増幅は継続的に行われます。 

      EDFAの特徴 

      1. EDFAは光通信に用いられる中の波長のうち主に C帯(1530nm〜1565nm) と L帯(1565nm〜1625nm) の増幅に用いられます。 
      1. EDFAは一定の波長範囲内で比較的均一なゲインを行うことができるため、波長多重通信などで各チャンネルを均等に増幅させることができます。 
      1. EDFAは低ノイズで効率的な増幅を行うことができるため、長距離の伝送に適しています。 

      半導体光増幅器(SOA) 

      半導体光増幅器 (SOA: Semiconductor Optical Amplifier) は、以下の図のような半導体レーザーの両端の反射面を無くしたような構造からなる光増幅器です。 

      SOAの基本的な動作原理 

      1. 半導体材料に電流を注入して半導体材料の内部の電子を励起させ高エネルギー状態に移行させます。 
      1. 一方から増幅させたい光信号を入力します。 
      1. 光信号が半導体材料を通過する際に、信号の光子によって励起された電子が基底状態に戻り誘導放出が起こります。この時入力した信号と同じ波長の光子が増え、光信号が増幅されます。 
      1. 増幅された光信号がもう一方の側から出力されます。 

      SOAの特徴 

      1. SOAは他の種類の光増幅器と比較して小型であり、半導体光部品との集積がしやすいです。 
      1. SOAはおよそ800nm〜1600nmの広い波長範囲で増幅が可能です。 
      1. SOAの増幅器の活性層(光増幅が行われる部分)は非常に短いにもかかわらず20dB程度の増幅が可能です。 

      ラマン光増幅器(Raman Amplifier) 

      ラマン光増幅器は、ラマン散乱という光学現象を利用して光信号を増幅するデバイスです。 

      ラマン光増幅器の基本的な動作原理 

      1. 高エネルギーのポンピング光を光ファイバに注入します。そのポンピング光が光ファイバを通過する際に、ファイバ材料内の分子や原子と相互作用し、ラマン散乱が発生します。 
      1. ラマン散乱の過程で、ポンピング光の一部のエネルギーが信号光に移動し、信号光が増幅されます。 

      ラマン光増幅器の特徴 

      1. ラマン光増幅器はポンピング光源の波長に応じて異なる波長での増幅が可能です。 
      1. ラマン光増幅器はラマン散乱を利用するため、既存の光ファイバを用いて増幅させることができます。 

      <製品例>
      光増幅器ラインナップ

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      各光増幅器の使い分け 

      前項まででは、EDFA、SOA、ラマン光増幅器の基本的な動作原理や各光増幅器の特徴について解説しました。それぞれの特徴より、C帯やL帯の光信号を均一にゲインしたい場合はEDFA、小型の光増幅器を用いる必要がある場合はSOA、任意の波長の光を増幅したい場合はラマン光増幅器を用いると、各光増幅器の利点を活かした運用ができます。 

      以上が主要な光増幅器です。実際に光増幅器を使用する際には求めるスペックに応じたものを選ぶ必要があります。そこで次項では光増幅器の性能を示す代表的なパラメータについて解説します。 

      光増幅器の主要なパラメータ 

      本項では、光増幅器を選択する際に考慮するべき主要なパラメータについて解説します。 

      増幅率
      増幅率は光アンプがどれだけ信号を増幅できるかを指します。 

      波長範囲
      波長範囲はアンプが効率的に増幅させることができる光の波長の範囲として記述されます。この波長範囲は光増幅器の素材や構成によって異なるため、使用する光信号の波長に合わせて選ぶ必要があります。 

      雑音指数
      雑音指数は光増幅器で信号を増幅する際にどれだけノイズが発生するかの量を指します。この雑音指数が少ないほど増幅後のノイズが小さいためシステムの性能が良くなります。特に光通信システムで長距離通信を行う際などにはこの雑音指数が重要なパラメータになります。 

      飽和出力
      飽和出力はアンプが最大出力に達する前に増幅率が減少し始める出力レベルのことを指します。システムが高出力で動作する場合には、この飽和出力の高いアンプが必要になる場合があります。 

      最大出力パワー
      最大出力パワーはアンプが供給できる最大の光の出力パワーのことを指します。ハイパワーな光を用いたい場合には、このパワメータが重要になります。 

      最大入力パワー
      最大入力パワーはアンプに入力できる最大の光のパワーのことを指します。

      また、これらのパラメータ以外にも光増幅器の物理的な大きさも考慮する必要がある場合があります。より小型な光増幅器を用いたい場合には半導体光増幅器を用いるのが適しています。 

      <製品例>
      半導体光アンプ

      半導体光増幅器 (SOA:Semiconductor optical amplifiers) は増幅媒体として半導体を用いた光増幅器です。
      SOA はファブリ・ペロー半導体レーザと似通った構造をしていますが、半導体チップの片面にARコーティング(Anti-Reflection coating)が施されています。

      まとめ 

      • ● 光増幅器には、特徴や原理の異なるエルビウム添加光ファイバ増幅器、半導体光増幅器、ラマン光増幅器といった種類があります。 
      • ● 光増幅器をシステムで用いる際には、用途に応じた性能を有する光増幅器を選択することが重要です。 

      用語集 

      用語意味
      *1 光増幅器 光信号の強度を増加させるデバイス。通信システムや光処理アプリケーションで利用される。 
      *2 レイリー散乱 光が微小な粒子や分子に遭遇し、元の波長と同じ波長で散乱する現象。 
      *3 エルビウム 元素記号Er、原子番号68の希土類元素。エルビウムドープファイバ増幅器(EDFA)に使用される。 
      *4 ポンピング光源 光増幅器の動作に必要なエネルギーを提供する光源。通常、高エネルギーの光を発生させるレーザーが使用される。 
      *5 励起状態 原子や分子が外部エネルギーを吸収して高エネルギー状態に遷移した状態。 
      *6 基底状態 原子や分子がエネルギーを放出して最低エネルギー状態に戻った状態。 

      « 筆者紹介 »

      鈴木 涼介 博士前期課程 M1 *2024年3月現在

      埼玉大学大学院理工学研究科数理電子情報専攻 電気電子物理工学プログラム 塩田研究室在籍。
      主な研究テーマは「周波数領域相関を用いたワンショット任意光波形計測システムの研究」
      セブンシックス株式会社技術顧問である塩田 達俊 准教授のもと、研究に取り組みながら企業へのインターン活動なども積極的に行っている。