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宇宙のレーザー通信│Vol.143

光技術解説 , 業界・ビジネス動向

【sevensixTV】に第143弾の動画を配信しました。

00:38 NASAによるレーザー通信実証実験
01:02 低地球軌道(LEO)通信の難しさ
02:09 小型衛星レーザー通信の課題
04:38 宇宙レーザー通信の現状と将来展望

本動画は「宇宙で活躍するレーザー技術」をテーマにしたシリーズの第1回目です。
今回は、近年注目を集めている 宇宙でのレーザー通信 に焦点を当てて解説します。

NASAが2023年に実施した衛星-地上間レーザー通信の実証実験を例に、 従来の電波通信と比較した際のレーザー通信の特長、 低地球軌道(LEO)における通信の難しさ、 さらに小型衛星にレーザー通信を搭載する際に求められる技術要件や課題について紹介します。

■ 映像・資料提供:NASA

00:38 NASAによるレーザー通信実証実験

レーザーは地上だけではなく、宇宙でも大活躍しています。宇宙の方がむしろ、よりイキイキと活躍していると言ってもいいかもしれません。レーザーの魅力についてお伝えできればと思います。

宇宙で活躍するレーザー技術

これは、衛星から地上へのレーザー通信を実証したときの概要図です。
2023年6月にNASAによって実施されました。

衛星から地上へのレーザー通信を実証したときの概要図

4.8テラバイトのデータ(高解像度ビデオ約2,400時間分に相当)を5分間で毎秒200ギガビットの速度で エラーなく送信することに成功しました。

4.8テラバイトのデータを5分間で毎秒200ギガビットの速度で エラーなく送信

01:02 低地球軌道(LEO)通信の難しさ

何がすごいかと言いますと、まず、この通信を高度530kmの低地球軌道を利用して実現したことです。

低地球軌道(LEO)通信の難しさ

衛星が利用している軌道は、大きく分けて3つあります。高度36,000kmの軌道は、静止軌道と呼ばれています。
静止軌道を回っている衛星は、地球の自転と同じ速さで回っていますので、地球から見ると、静止しているように見えます。そのため、地上と衛星間で通信するのに好都合です。地上と常に通信をする必要がある、通信衛星や放送衛星、気象衛星などは、高度36,000kmの静止軌道を利用しています。

今回の実証実験は、静止軌道ではなく低軌道を回っている衛星との通信に成功しました。

衛星が利用している軌道は、大きく分けて3つ

衛星は低軌道を時速27,000キロメートルで動いています。これは、地上から見ると、星が流れるように見える速さで、地平線から地平線までわずか5分程度で通過します。そのたった5分間に、4.8テラバイトのデータを送信しました。

地平線までわずか5分程度で通過します。そのたった5分間に、4.8テラバイトのデータを送信

02:09 小型衛星レーザー通信の課題

次にすごい点は、

大型衛星ではなく、小型衛星でレーザー通信を実現したことです。小型にすることで、設計上さまざまな制約が出てきたり、熱の問題が発生したりします。しかし、数千機の衛星が光ネットワークを組むようなコンステレーションが実現するような時代には、小型量産型の衛星が主流になります。
それを見据えて、あえて小型機で挑戦したそうです。
逆にメリットもあります。 小型にすることで、ラピッドプロトタイピングが可能となり、開発費用や開発期間を大幅に削減できます。

小型衛星レーザー通信の課題

衛星の実際のサイズはどれぐらいか、というと、衛星自体のサイズは、30 cm x 25 cm x 10 cmです。
その衛星に搭載されるレーザモジュールのサイズは容量としては3Uで、ティッシュ箱程度のサイズです。

小型衛星レーザー通信の課題:サイズ

レーザモジュールの仕様は、波長:1550nm、出力:数ワット ビーム発散角は数十~数百マイクロラジアンです。

小型衛星レーザー通信の課題:サイズ

さて、小型衛星でレーザー通信を実現することの課題です。
まず、ビーム方向の制御は、衛星姿勢のみで実現する方針をとっています。
つまり、レーザモジュールには可動ミラーなどのアクティブ光学制御は実装させず、パッシブ構造だけで、20マイクロラジアンのビーム指向安定性を維持しています。
また、厳しい光学設計・熱設計・構造設計の要求を手のひらサイズで実現しています。どのような要求かというと、
・サイズ、重量、消費電力を徹底的に小さくすること
・高精度なビーム指向安定性を満たすこと
・熱変動耐性を満たすこと
です。

小型衛星でレーザー通信を実現するための課題3つ

特に重要なのが熱変動耐性です。レーザーモジュール内部にはトランシーバ、FPGA、EDFA、SSDなど、発熱する部品が多数実装されています。それらは通信の間に著しく発熱し、1分あたり3-4度、通信している5分間で20度以上も上昇します。
そのために、レンズ、フィルタ、光ファイバを1つの金属ブロックに直接固定する光学モノシリック構造を採用し、材料には、熱膨張率が小さくて適度な強度があるチタン合金を採用し、レンズ材料もチタンの熱膨張率を考慮した材料選定を行っています。

小型衛星でレーザー通信を実現する課題:熱変動耐性

こちらが実際のモノシリック構造です。

モノシリック構造

04:38 宇宙レーザー通信の現状と将来展望

宇宙レーザー通信の現状と将来展望

最後に、宇宙レーザー通信の未来について紹介します。
これは、内閣府から発表されている「安全保障のための宇宙アーキテクチャー」です。
静止軌道だけでなく、中軌道、低軌道をうまく活用して、通信ネットワークを形成します。中期道や低軌道では、複数の衛星同士でコンステレーションを形成しています。

このように、各軌道でネットワークを組み、また軌道間、さらに地上との間でもネットワークを形成しています。まさに、地球も含めた宇宙空間をレーザー光が、網目として張り巡らされています。

この絵を見ているだけでも、レーザーが今後、ますます宇宙で活躍することが期待されます。
恐らく、このような未来が来るまでに、それほど時間はかからないのではないかと思っています。

宇宙で活躍するレーザー技術について、もし、もっとこのようなことが知りたい、ご意見・リクエストがありましたら、 ぜひ、コメント欄にご記載ください。

安全保障のための宇宙アーキテクチャー